第25話 絡繰り
57-025
モーリスと聞いてのあの怒った様子は唯事では無いと思ったが、それ以上何も出来ず今回はそのまま帰ることにした。
翌日、志乃の両親に話を聞くために志乃の実家に向った。庭で老夫婦が草むしりをしていたのが見えたので「すみませんが?お孫さんの貢さんはいらっしゃいますか?」と声をかけた。
小南は昨日のようにならないようモーリスの名前を出さず話を聞こうと思っていた。
「貢は仕事で去年から大阪に行っているので、ここにはおりませんが何か用事かな?」
「そうですか、ご住所とかは判りませんか?お会いしたいのですが」
「婆さん!貢の電話番号聞いていたじゃろう?このお姉さんに教えてあげなさい」
何の疑いも持たない老人は簡単に孫の携帯番号を小南に教えてくれた。
早速電話をするが、留守番電話に変わってしまう。その後二度程掛けてみたが、応答はなく折り返しの着信も無かった。
その頃、美沙は、小諸物産の小諸社長と会っていた。小諸は会うなり「お美しい娘さんがいらっしゃったのですね!それにしても先日の電話であなたのお父様の事に失礼なことを言って申し訳なかった」と丁寧に謝ってくれた。
美沙は小諸社長に色々聞く為に、自分の知っている事を全て話す気持ちでいた。
「お時間を頂きありがとうございます!当社は近日中に大手頒布会の謎!というタイトルの特集記事を出す予定で、取材をしています」
「えっ、ウィークジャーナルにその様な特集が出るのですか?これは驚きですね!」
「実は全国でここ数年の間に倒産された十社が選ばれて、我社の記者が取材を行っていたところ、その全ての会社がモーリスと取引をしていたとわかったのです」
「十社は御社の方が選別されたのですか?」
「本社の企画部が選んだ最近五年以内に倒産若しくは廃業した業者です」
「じゃあ、私が聞いた話は本当だったのですね!」
「社長さんは何方かにお聞きになられたのですか?」
「モーリスの待合室でお会いした漬け物会社の部長さんでしたが、ご本人もこの商談が最後で退職されると話されました!私の商談は上手くいきませんでしたがね」
「その漬け物会社の部長のお名前を教えていただけませんか?」
「泉田さんとか言われましたね」
「その会社は今も在るのでしょうか?」
「はい、今も京都で商売をされていますよ!モーリスにも商品は納入されている様です」
「じゃあ、その会社は何も問題はかったのでしょうか?」
「私はそれ以後その部長さんにもお目に掛っていませんので判りません。七年か八年前でしたからね」
「小諸社長さんはその話だけで父にモーリスとの取引を反対されたのですか?」
「いいえ、その後、私も気になって調べてみました。すると泉田部長さんの話された事が実際ありました」
「それはどの様に調べられたのですか?」
「頒布会で数社の品物を買いまして、メーカーに頒布会のことを尋ねました。すると数社が実態を教えてくれました」
「態々会員になられて調べられたのですか?」
「私も取引をする気があったのに、泉田部長に反対されて疑心暗鬼になりましたので調べる気になりました。でも調べる方法が思いつかなかったので数社の頒布会に申し込みました。赤城さんの近くの会社の品物もありましたよ。確かそこの奥さんが詳しく教えて下さいました」
「それってもしかして、寺崎食品さんですか?」
「そうです!寺崎食品の奥様がモーリスとは取引をしては駄目だと!強くおしゃいました!」
「えー、既に寺崎食品は倒産して跡形もありません!社長はお亡くなりになっていました。今、同僚が奥様に取材に行っています」
「本当だったのですね。私の聞いた話が現実になったのですね!」
「どの様な話だったのでしょう?」
「奥様の話では毎日家族総出で仕事をしても、ぎりぎりなので誰かが病気になったらお終りになると話されていました」
「家族でぎりぎり?確かお爺さんが病気になられたと聞きました」
「それですね!お爺さんの病気が発端で・・・お話の通りになってしまったのですね」
「それは家族で働いて人件費も節約していたという意味でしょうか?」
「多分、モーリスに支払いサイトを伸ばされて、資金繰りが毎月ぎりぎりだったと思います!」
「支払いサイトって通常は何日ですか?商売の事は良く判らないのですが?」
「普通は月末締めの翌月末払いが普通ですが、聞いた話ですとモーリスは百二十日払いをする様ですね」
「それって半年先にお金を払うって事ですよね!それで寺崎さんは苦しめられて、人も雇えず家族総出で働いていたのですね。そして家族が病気になって生産が困難になってしまった」
「しかし、モーリスを裁く事は出来ないでしょうね。法律に触れる事は何もしていないのですからね!赤城さんの週刊誌に内部告発者でも出れば、実態がもう少しはっきりするでしょうが、我々外部の人間では中々絡繰りが判りませんね」
「私が必ず暴いて見せます!父の為にも千歳製菓を救わなければなりません!」
「私が思いますには、千歳製菓は既に相当深みに填まられている様に思いますよ。従来の商品、取引先が殆ど消滅して回復不可能な状況に陥っている様に思いますね。特に今の社長さん親子は大きな失敗の方向に進まれているように見えます!」
「わかりました。京都の京漬屋さんに話を伺ってきます」と言った。
明日は、三人が情報を持ち寄るので今日の話もする予定にした。
小南は何度も貢の携帯に電話をしたが、全く反応が無いのでもう一度母親に会おうとパート先に行ったが、休んでおり自宅にも姿が見えない。
大阪の梶谷不動産に取材に行った木村も、担当者が出て来て「マンションの建設はありませんよ!工事の者が現場を間違えた様ですね。申し訳ございません」と顔を見るなり言われた。
「役所の桐谷と名乗る男が荒井興産の人と一緒にのぞみ保育園に行っているのですが御社の紹介だと聞きましたが?」
「とんでもない男ですね。当社も騙されました!桐谷は他の当社の物件も役所の公園にしたいと、図面まで持参したのですよ!」と惚けた上、しまいには自分たちも被害者だと言って関与を否定した。
木村はそれ以上何も聞き出せず梶谷不動産を後にした。
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