第24話 誤解
56-0-24
登記簿上は寺崎保から荒井興産に渡り、一部が梶谷不動産の所有になっている。
二人は歩きながら話をした。
「これはどちらかの不動産屋が嘘をついていると思いますね!」
「市の公園とマンションでは大きな違いですよ!でも、既に契約は終ったのでどうする事も出来ないのでしょうか?」島村園長は荒井興産を出ると木村に不安な胸の内を明かした。
「保育園の移転後にマンション建設になれば、工事の関係で子供達への危険も多いですよね!移転はいつなのですか?」
「平屋の建物ですから、三ヶ月後には完成します!その後、旧保育園の取り壊しも直ぐに始まると思います」
「千歳製菓さんも工場の拡張の予定が有るので、日程を伸ばせないでしょうからね」
「多分難しいでしょうね」
「でも何故?ウィークジャーナルの記者さんが、保育園の建設の取材をされているのですか?私達の保育園の様な・・・」
「いいえ、私達は最近倒産した企業の調査を行っていたのです」
「寺崎食品さんは三年以上前でしょう?」
「そうですが、我々は本社から数社の企業の取材と調査を命じられて、その中の一社が寺崎食品だったのです」
「でも寺崎食品さんとは私達の保育園は全く関係が無いと思うのですが?」不思議そうに尋ねる園長。
「はい、関係無いのですが、不動産屋の荒井興産と寺崎食品の関係があればと思って調査を始めました」
木村は明日大阪の梶谷不動産に取材に行くので、結果は園長に報告するという約束をして別れた。
荒井興産の社長は二人が帰った後直ぐさま梶谷不動産に電話を掛け、偽の役所職員桐谷の事が週刊誌の記者に知られてしまったことを話した。
梶谷社長はその報告を受け直ぐに新和商事に連絡を入れて今後の指示を待つ事になった。
その日の夜遅く、モーリスの松永部長の元にウィークジャーナルの記者が荒井興産に来たとの連絡が届いた。深夜ではあったが、松永は管理部の緊急会議を行った。
「ウィークジャーナルの記者が何故急に現われたのだ?」
「寺崎食品の跡地で問題が発生した訳でも無い、保育園の移転ごときで何故週刊誌の記者が来るのだ?」
「明日、その記者が梶谷不動産に来るそうです!」
「いくつものトンネル会社を準備しているので、普通では我社まで辿り付けないとは思うが、週刊誌それもウィークジャーナルが絡んでくると面倒だな!それも桐谷の事を知られたとは」
「マンション建設を凍結しますか?」
「ウィークジャーナルの意図を至急調べてから対策を考えよう!最悪マンション建設は凍結だ!」松永部長は週刊誌の取材に神経を尖らせた。
自宅で美沙は父信紀にモーリスとの取引状況を尋ねると「何故?その様な事を聞くのだ?」と訝しがられた。
美沙は寺崎食品以外の九社も全てモーリスと取引があった会社だと説明して「何か無理な契約条件とか無かったの?」と聞いた。
「今は担当離れているから判らないけど、最初は三十日サイトの支払いが六十日になったのは知っているが、それは普通だからな。それ以後更に変更があったのかは聞いていない」
「他には?」
「モーリスがどうとかより、会社はモーリスと取引をする為に不採算のアイテムを全て製造中止にしたな」
「今会社の主力はモーリスなのね、もしもモーリスとの取引が無くなれば終りになるの?」
「今までは、無借金経営だったし宮代会長が結構な資産をお持ちだから、当面凌げる状況だったが、今は増資もしたので状況は変わったかもな」
「モーリスの実体についてよく知っている人はいないの?」
「美沙の週刊誌は、モーリスの商売を暴いているのか?」
「そうではなかったのだけど、その様な流れになって来ているわ」
「あっ、そうだ!神戸の小諸物産の社長に尋ねたら、モーリスの事は教えてくれるんじゃないか?当社が力になれずに取引していた商品が廃番になったのでお怒りだろうが、多分モーリスの事なら教えて下さると思う!」
「お父さんが左遷された原因となった介護関係の会社ね!」
美沙は、もし千歳製菓も寺崎食品と同じ道を歩んでいるとしたのなら一刻も早く真相を掴んで、助けなければと思っていた。
翌日、小諸物産にアポイントの電話をすると「千歳製菓?既に取引は終った。前の営業課長の娘さんが週刊誌の記者になって、取材をしたいって虫の良い話だな!それもモーリスの話?面白可笑しく褒め称える記事を書くのだろう?」
「社長さん!父は、今までの商品の存続を会社に強く進言して、そして営業を外されました!今会社はモーリスの仕事をする為に、隣接の保育園の用地まで買収しています!父は、介護の施設に納入されている御社の商品を最後まで守ろうとしたのですが・・・」美沙は勢いで喋った。
「・・・」小諸社長は絶句した。
「そうだったのですか?知らなかった!赤城課長さんは、頑張ってくれていたのですね!」
「もう課長ではありませんが、工場の現場主任で元気なく日々を過しています」
「えー、現場の主任に?お気の毒ですね。判りました!明日にでも来て頂ければ私の知っている事はお話します。申し訳無かったとお父さんに伝えて下さい」
翌日話を聞く約束を取り付けることができた。
一方小南は寺崎保の奥さん志乃が、岡崎市の実家近くにいるという情報を得て向っていた。
志乃は、実家の近くにひっそりと暮して、苗字も寺崎から水野に変わって、小さな惣菜工場のパートで細々と生活をしていた。
小南はパートの終る時間を見計らって、惣菜工場の近くで待っていた。
自転車に乗って帰宅途中の水野志乃を見つけて話し掛けると、驚いて逃げ帰ってしまった。
夜、自宅を訪れると「週刊誌の方が私に何の御用でしょうか?」
「寺崎食品さんの事でお聞きしたいのですが?」
「寺崎とは随分前に離婚していますので、何も存じません!今頃週刊誌の方が寺崎の事を調べて何をなさるのですか?」
「モーリスとの取引についてお話をお聞きしたいと思いまして」
「モーリス?その様な事なら尚更話すことなどありません!二度と聞きたく無い名前です。悪魔です!帰って下さい!」
「あの・・・」と言う間も無く、扉を閉められた。
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