第23話 疑惑の移転
56-023
「土地は梶谷不動産の所有なのですか?」
「違いますよ!園長の所有ですよ!」
「この保育園の土地と交換されたのですか?」と美沙が尋ねる。
「何か問題でも有るのですか?週刊誌の取材を受ける様な事が?」
「いいえ、私達は寺崎食品の取材をしていたのですが、跡地がのぞみ保育園に変わると聞いたので取材に来たのです」
「寺崎食品さんから土地を買ったのではございませんし、梶谷不動産も知りません」
「えっ、梶谷不動産では無いのですか?」
「荒井興産と言う不動産屋さんから、譲り受けました。現在のこの土地はその荒井興産の持ち物になる筈ですよ」
「ここの跡地は隣の千歳製菓さんに譲られたのでは?」
「いいえ、千歳製菓さんは荒井興産に借りる筈ですよ!」
ややこしい話を聞いて保育園を後にする二人は、小南と合流して先程の話の裏付けになる登記簿謄本を役所に行って調べた。
二〇〇〇年に寺崎保から、荒井興産の所有に変わっているが最近になって半分強が梶谷不動産名義に変わっていた。
「今頃、園長が戻って荒井興産に抗議の電話をしているでしょうね、公園だと言われた隣の土地にマンションが建つのでは保育園としても予想外でしょうね」
「その土地が梶谷不動産の所有に変わっていれば、話してもしょうがないでしょう」
「騙されたのでしょうね」
その時、先程の島村郁子が美沙の携帯に電話を掛けて来て「公園建設について教えてくれた人から名刺をいただいていたので、役所に問い合わせたのですが、役所にその様な人はいません!と言われました。騙されたのです!記事にしてくれませんか?荒井興産を何とか・・・」横から園長が電話を切ったのか途中で切れてしまった。
「のぞみ保育園の土地を買収する為に、偽の役所の職員を仕立てた様だわ!悪質な不動産屋だわ」小南が強い口調で言った。
「小南さん、私達はこれからどうしたら良いでしょう?寺崎食品の取材だから保育園は関係無いですよね?」
「でも、第二の寺崎食品の道をたどるのが千歳製菓なら?取材する価値は有るわ!美沙のお父さんの会社だから尚更気になる」
木村が「梶谷不動産と荒井興産、そしてモーリスとの関係を調べたらどうでしょう?」
「そうね、でも寺崎食品の倒産の謎と息子貢の消息も調べ無ければ駄目よね」
「先輩、私は父の会社のことでもありますから一人でこの絡繰りを調べますので、二人は寺崎食品を追って下さい」
「えっ、美沙一人で大丈夫?」
「大丈夫です!いざとなったら父に助けて貰います。保育園の事と会社も気になりますから、今モーリスとどの様な取引になっているのかを調べて見ます」
「そうよね、モーリスに食い物にされて十社が倒産していたのなら、お父さんの会社も狙われている可能性が十分有るわね」そう話した時、本社から小南に電話がかかってきた。先日の答えのようだ。その答えを聞いた小南の顔色は一気に変わった。
「美沙!頑張って!」
「どうしたのですか?小南先輩!」
「私達が取材している十社は全てモーリスと取引があったのよ!」
「えーー」声を裏返らせて二人が同時に叫んだ。
「特集記事も大手頒布会の謎ってタイトルになるらしいわ。だから美沙はお父さんの会社を守るためにも実態を暴いて記事にするのよ!十一番目にならない保証は何処にも無いからね」
「は、はい!頑張ってみます!」
「明日から手分けして情報を集めて、三日に一度その情報を持ち寄りましょう。木村さんは不動産業者の調査、私は寺崎の家族の行方を追うわ!」
翌日、木村は、名古屋駅前の小さなビルの一角に在る荒井興産を訪れた。受付の事務員に名刺を渡して取材のお願いをした。
木村の名刺を受け取った事務員は入口の隣の応接室の扉を開けた時、先客が来ているようで中から大きな声が聞こえた。
「週刊誌の取材の方がお見えになっていますが」
「島村さん、申し訳ございませんが来客のようですので少しお待ち下さい」との声が聞こえ、頭の禿げた小太りの男が応接から現れた。その男は新井興産の社長だった。
「ウィークジャーナルの記者さんですね、私共にどのようなご用件ですか?」
「今のお客様はのぞみ保育園の島村園長さんでは?」
「はっ、貴方ですか!保育園に変な話をしたのは?」
「私は保育園建設現場の作業員に聞いた話をしただけで・・・」
木村の話を遮るように「それが余計な話と言うのですよ!」
「でも市の職員が偽者だったのでしょう?貴方が市の職員と言って保育園に連れて行ったのですよね?」
入り口での話が聞こえたのか、応接室から島村園長が出て来て「昨日の週刊誌の方ですか?これですよ!この男は役所にはいない!偽者ですよ!」と名刺を木村に見せながら激しい口調で言った。
新井は「奧の部屋に行きましょう?この場所では迷惑だ!」と言って二人を応接室に連れて入った。
部屋にいるなり新井は急に「正直に言おう!私も騙された!申し訳無い!」と下手に出た。
そして、新井は、梶谷不動産が役所の桐谷という男を連れて来て、公園用地として土地を売って欲しいと交渉に来たのでその男の話を信用し、公園用地ならその隣の土地はのぞみ保育園の代替え地として最適になると思ったのだと説明した。
「保育園の横が市の公園なら最適の場所だと、荒井さんがのぞみ保育園に勧めに行ったという事ですね?」
「そうです!千歳製菓の京極社長にのぞみ保育園の代替え地を探してほしいと以前から頼まれていまして、最高の立地条件の土地だと思い島村さんに勧めたのです」
「寺崎食品から荒井さんが土地を購入されていますよね!」
「は、はい」
「もう一度確認します。梶谷不動産に寺崎食品の跡地の約半分を公園用地として売却されたのですね?」
「そうです!保育園と公園なら丁度良いと思いまして売却しました。島村さんに桐谷さんを会わせたのも私です。まさか偽者だったとは?」
「園長!私が一度大阪の梶谷不動産を調べて来ますので、またそれから話し合うのは如何でしょう?」
「私も一緒に行きたい心境ではありますが、宜しくお願いします」
木村は荒井の説明には半信半疑であったが、島村園長と共に荒井興産を後にした。
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