#131 イタズラな風
全神経を集中させる。
瞬きひとつ、震えひとつ許されない。空気の振動すら怖いから、呼吸も止める。動かしていいのは、トランプを持つ両手だけ。
今、ようやく、トランプタワーの5段目に突入するのだ。人生で初めて、5段目が完成しそうなのだ。
今まで3段が限界だった。それを一気に4段を飛ばして5段目に行く。これはもう運とかいろんなのが俺に味方しているとしか考えられない。これを逃せば、俺はもうトランプタワーを作ることができない。
そう思えてしまうほど、調子が良かった。
行ける、行けるぞ。
震える手を何度も何度も構える。酸素が欲しくなると、首を横にして息を吐く。決してトランプには何も向けない。
行くぞ、行くぞ!
「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」
今、トランプが接触した。
手をはなす。
「────あ」
しまった。しまった。失敗した。手を早く動かしすぎた。これじゃあ手が空気をふらしてトランプを倒してしまう。最悪だ。最後に、最後に手を早く動かしてしまった。なんで最後の最後に失敗を……!
「…………ってあれ? 倒れて、ない」
しかし、トランプは正常に立っていた。
5段のトランプタワーが堂々と鎮座している。
「……あれ?」
これはおかしい。おかしい。あんなに素早く手を動かして、崩れるに決まっている。
「…………もしかしてっ!」
俺はその場から素早く立ち上がった。そしてとある場所へと向かう。その途中、俺が立ち上がったのにトランプが崩れていないのを視界の端にとらえ、疑惑が確信に変わった。
「フウコ!」
閉め切っていた窓を開けて叫ぶ。
ぎくっとした空気の揺れ。
フウコと名付けた風のお化けがそこにいる。
「お前、窓の隙間から風を少しずつ送ってトランプを支えてたな? 言ったよな? 手伝うなって。俺は俺の力でトランプタワーを完成させたいんだって」
気まずそうに沈黙する気配。
風のお化けフウコ。姿形は見えないが、そこに確かに存在するお化け。数ヶ月前に出会って、それ以降友好な関係を気づいけていったお化け。いたずら好きと言う厄介な性格をしているこのお化け。
全く。自分の力でトランプタワーができていたと思ったが、どうやらこいつが手伝いをしていたらしい。
「いいか? 俺は自分の力でトランプタワーを完成させたいんだ! 次やったら、本当に許さないからな」
そう言って俺は窓を閉める。
カーテンも閉めて、部屋の中が見えないようにする。
流れてきた汗を拭って、いざ再トライ。
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