#63 未来の服

 時は20XX年の日本。

 人類の科学は高度な発展を見せ、過去、SFや物語の中でしか描かれていなかったものが現実のものとなった。

 例えば、空飛ぶ車。

 例えば、空中に投影されるディスプレイ。

 例えば、完全個室の移動車(過去に『電車』と呼ばれていたもの)。

 そして、フルダイブ式のゲーム機も今は当たり前に存在する。

 そんな夢溢れた世界。しかしこの時代を生きる人間からすれば、それは当たり前のこと。もはや生活の一部とかしているため、それに対して思うことなどない。


「……今日、何着てこ」


 一人の少年が自室で首を傾げていた。

 彼は今日来ていく服を何にするか迷っているのだ。このような点はいつの時代になってもあること。いや、もしかしたら選択肢が増えた分、今の方が『迷う』という機会が多いかもしれない。

 少年もまた、迷っている。本日来ていく服を。

 彼の年齢は15歳。この時代においても、『学校』というのは存在している。いつの時代においても『学舎』は存在する。『子ども』たちはここで『学び』そして『大人』へと成長する。

 そして彼が通う『学校』には『制服』というものがない。好きな服を着て、『学校』へと行く。

 故に毎日のように悩む。今日は何を着て行こうか、と。


「昨日は民族衣装を着たから、今日は『スーツ』っていうのを着てみようかな」


 そう言って、少年はパネルを操作する。

 すると、少年の服装が『スーツ』へと変わる。

 過去において『サラリーマン』が来ていた黒い服装。


「へー、結構シンプルなんだな。けど、この『ネクタイ』ってのは嫌だな。首元が苦しい」


 少年はネクタイを下げる。ワイシャツと呼ばれるシャツは、首元までボタンがあり、それが全部しっかり閉じられている。


「うーん、かっこいいけど、なんか日常には不向きだよな〜。じゃ、この『袴』ってのはどうだろ」


 ウィンドウをスライドする。

 スーツから『袴』に変わる。


「うわっ、これも日常には不向き、いや……結構いいな。これにしようかな」


 少年は今日の服装を決めた。一応、今着ている服装についての説明がウィンドウには表示されているのだが、少年は見向きもせずウィンドウを閉じてしまう。

 よし、と言って少年はドレスルームから出る。そのまま自室を出てリビングへと向かう。


「おはよう」

「おはよう。なーに、今日のその格好」


 リビングへと向かうと、母親が怪訝な顔で見てきた。


「『袴』っていうんだって。なんか良くない?」

「良いとは思うけど、それどういうものかちゃんと見たの? あんた前も概要見ないで服きて、学校で笑われたって言ってたじゃない」

「見てないよ。けどいいじゃん。自分が良いって思ったものを着れば。だから母さんだってずっと『ジャージ』っていうの着てるんでしょ?」

「それを言われるとそうね。これ、動きやすいし、シンプルで良いのよね」


 そんな会話をしながら少年はテーブルへとつく。



 今の時代、誰しもがさまざまな『服』を着られるようになった。各家庭に配置された『ドレスルーム』と呼ばれる機械。それによって、わざわざ服を買わずとも好きなものを纏えるようになったのだ。

 まるで過去の時代においてゲームのキャラクターの服装を変更するかのように。簡単に変えることができる。

 故に、人々はそれが一体何だったのかを見なくなっていった。

 概要はあっても誰も見ない。

 ただ自分が良いと思ったか、思わなかったで服を選んでいく。

 


 今の時代、過去からは考えられなかったものが生まれている。

 例えば、空飛ぶ車。

 例えば、空中に投影されるディスプレイ。

 例えば、フルダイブ式のゲーム機。

 仮想空間と現実空間。

 果たして今の人間が生きているのはどちらの世界なのか。

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