#64 順番を踏んでほしい

「だから、俺は思うんだよね〜。物語において重要なのは『熱』と『勢い』なのさ。多少の矛盾や伏線放置なんていいのさ。面白い、って思わせてそのままゴールしちまえば」


 と、そんなことをビール缶を片手に豪語する定海さだみ|コウスケ。僕と一緒に漫画を描くコンビで、定海はストーリーを担当している。僕はもちろん作画担当。

 今、僕の家で次回作に向けてネタを出し合っているところだ。


「最後の言葉には僕も同感だ。だけど、最近は奇抜を狙いすぎだ。伏線をわざと放置したり、展開のつぎはぎがひどい。それじゃ『おかしな漫画』しかできない」

「それが狙いなんだよ。今の時代、まずは目を引かなきゃダメだ。そして目を引くには『奇抜』で行かなきゃダメだ」

「そんなことはない。奇抜じゃない丁寧な作品でも目に留まることはある」

「んなもん、絵のうまさが重要だろ。お前、自分の絵にそこまでの自信あるのか?」

 

 む、と言葉に詰まる。そんなこと、自信なんてないに決まっている。僕の絵なんてまだまだだ。

 でも、だからと言って……。


「絵で釣れないなら、話で釣るしかない」

「……ちょっと、外の空気吸ってくる」


 今の状態じゃまともな言葉を発せない。そう感じた僕は定海に断って外に出る。

 時刻は夜の9時過ぎ。春とはいえ、まだ夜は冷える。

 ……僕たちの作品は、未だ日の目を見ていない。正直、足を引っ張っているのは僕だろう。定海はストーリーの構成が上手い。大雑把に見えて、実は綿密に計算している。

 それに僕の画力が追いついていない。僕じゃなかったら、きっと定海はもうデビューしているはずだ。


「……なんで、僕と組んでくれてるんだろ」


 見限られてもおかしくないのに……。

 そんなことを思っていると、ポケットの中のスマホが震えた。

 着信だ。相手は……定海。


「何?」

『お、出たでた。なーに、どうせまたネガティヴ思考になってるって思ってよ』


 ご名答なんだよな。


『さっきは悪かったな。言いすぎた』


 ……こいつのこういうところはほんとすごいと思う。自分に非があるとすぐに自覚したら、その次に謝罪の行動ができるのだ。


「別に気にしてない」

『嘘だな。めっちゃに気にしてるはずだ。何年の付き合いだと思ってんだよ』

「小学生の時からの付き合い」

『正解。んだけ一緒にいれば嫌でもわかるっての』

「……僕にはわかんないな。定海は僕以外の、絵の上手い人と組めばすぐに売れると思う。なのになんで、僕と組んでくれてるの?」


 つい、そんなことを聞いてしまった。

 ダメだ。ネガティブモードになっている。こういう時は必要のないことまで口走ってしまうのが僕の癖だ。早く話変えないと。


『ん? 何でって、お前が好きだからだけど?』

「………………え?」

『だから、お前が好きなんだよ。初めて会った時からな。好きな子と組んで、好きな漫画描いて、そんな楽しい人生を歩みたいんだよ、俺は』


 ちょっと待て、こいつは何を言っている?

 ん? 定海が僕のこと、好き?


「ら、ライクの?」

『ラブだ』


 即答。


「………………!?」

『おー、驚いてる驚いてる。ま、無理もないわな。俺もまさかこんなタイミングで告るなんて思ってなかったし』

「え、あの、えっと……」

『ま、答えはいいわ。今はそれどころじゃないだろうし。俺も酒回ってるんだろうなー。んじゃま、今日はこのくらいにして、また明日ネタを練ろうな』


 そう言って、電話が切られる。

 ツー、ツー、という音だけが大きく聞こえる。


「………………えっと、僕明日からどうすればいいの?」


 急募。

 漫画家の相方に告白されました。

 明日からどう接すればいいのでしょうか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る