第8話 幸運の名前
【キース視点】
コイツ、マジなんなん?
こんな人間、初めて見た。
めっちゃ可愛くて、むちゃくちゃ
ヒトみたいに歌も上手いし、ホント最高なんだけど。
それにアーロンがこんなに表情豊かなの、初めて見たかも。
以前のアーロンは、いつも寂しそうな顔しててさ。
人間のことを、
暗い影を
でも今は、楽しそうに笑っている。
そっか、可愛い天使がいるから。
名前のない天使は、うちらに笑顔をもたらす為に舞い降りたんだ。
でも、いつまでも名前のない天使じゃ可哀想だ。
なんか、天使に似合う名前を付けてやりたい。
そうだ、ピッタリの名前があった。
「
俺がその名前を口に出すと、天使は驚いたようにビクッとなった。
まんまるに見開かれた目が、
「なぁ、『フェリックス・ブロック』って、良い名前だと思わねぇ?」
「フェリックス・ブロック? なにそれ?」
アーロンは、不思議そうな顔で首を傾げた。
「なにぃ? お前、知らねぇのかっ? フェリックス・ブロックは、俺が唯一尊敬していたヒトの名前だぞっ! 作詞の言葉選びも素晴らしくて、歌唱力も凄かったんだ!
「いや、知らねぇよ」
音楽に興味のないアーロンは、本当に知らないようだ。
「フェリックス」は、
教皇、王族、皇族、貴族、大統領、政治家、俳優、歌手、作曲家、作家、画家、学者などなど。
それに「フェリックス」は、「幸運」という意味を持つ。
アーロンに向かって
泣いた理由が分からず、うちらはオロオロするばかり。
「どうしたっ? 『フェリックス』はイヤだったかっ?」
「ごめん! もっと良い名前考えてやるから、泣かないでくれっ!」
天使が泣くと、
天使の涙が
顔を
「あのね、ボクね、ずっとね、おなまえ、よんでもらえなかったから、うれしくて……」
そうか、名前を呼んで欲しかったのか。
名前は本来、親が「こんな子になって欲しい」と、願いを込めて子に与える贈り物。
呼び続けられることによって、その子を
うちらが名前を呼び合っているのも、
知らなかったとはいえ、
俺はしゃがんで、天使と目線を合わせ、よしよしと頭を撫でる。
「よしっ、今日からお前の名前は『フェリックス』だ!」
「うん! ぼく、フェリックシュでしゅっ!」
天使、いやフェリックスは、泣き笑いの顔で明るく答えた。
アーロンはにっこりと微笑んで、フェリックスの名前を呼ぶ。
「フェリックスちゃ~ん」
「はぁ~い!」
フェリックスは嬉しそうに手を上げて、良い子の返事をした。
あ~もぅっ、なんでこんなに
🌞
【フェリックス視点】
「フェリックス」は、口に出してはいけない言葉だった。
「無能力の子」って、意味になったから。
誰も、ボクの名前を呼んでくれなくなった。
パパもママも、呼んでくれなくなった。
でも、お兄さんたちが、呼んでくれた。
名前って、みんなあるのが当たり前なんだと思ってたけど。
呼ばれなくなったら、悲しかった。
名前って呼ばれるだけで、こんなに嬉しいものだったんだね。
また名前を呼んでくれるのが、嬉しい。
たぶんお兄さんたちは、ボクが無能力の子だって知らないんだ。
無能の子だと知ったら、呼んでくれなくなるのかな。
こんなに優しいお兄さんたちも、ボクが無能力の子だと知ったら、きっとボクを嫌いになる。
ボクが無能力の子だと分かる前は、パパもママも優しかった。
街の人たちも、みんな優しかった。
でも、無能力の子になったら、みんなボクを嫌いになった。
パパとママもボクを嫌いになって、捨てられた。
また、嫌われる。
また、捨てられる。
ひとりぼっちは、寂しい。
もう、ひとりぼっちは嫌だ。
もっと良い子になるから。
ワガママも言わないから。
言われたことは、全部守るから。
悪いところがあったら、全部直すから。
苦手なことも、出来るように頑張るから。
だからお願い、ボクを嫌わないで。
🌞
【キース視点】
「ヤダヤダ、行きたくなぁ~いっ! ずっとフェリックスの側にいるぅうう~っ!」
「うるせぇ! ちゃっちゃと行って来いや、てめぇっ!」
キースがうちのフェリックスを抱っこして、ダダをこねていやがる。
やめろや、フェリックスがめっちゃ困ってんべや。
前にも説明したけど、キースは人間として働いている。
国王の相談役である「
内部からジワジワと腐らせて、国家そのものをブチ壊す。
国が回らなくなれば、国民は
一度暴動が起これば、簡単には収まらない。
大勢の人間が働かなければ、経済も回らなくなる。
人間は
国民は飢え、わずかな食料を求めて、
やがて、人間は
ところが最近、キースはすっかりフェリックスの
フェリックスは、人間。
人間を滅ぼせば、当然、フェリックスを産んだ親も死ぬ。
「フェリックスを捨てた
今も、フェリックスは両親の愛を求め続けている。
毒親であっても、親が死ねばフェリックスが悲しむ。
可愛いフェリックスを悲しませたくない気持ちは、オレも同じ。
人間憎し。
フェリックスは、愛おしい。
やりがいを感じていた仕事が、急に
それに、フェリックスが
で、仕事に行きたくなくなったってワケよ。
オレはやれやれと、ため息を吐く。
「おい、キース。フェリックスを喜ばせる方法を、ひとつ教えてやる」
「え? なになにっ?」
「フェリックスの服とオモチャ、買ってこいや」
「おぉっ、そうだな! ここには、フェリックスのもん、なんもないもんなっ!」
チョロい。
キースはフェリックスに、デレデレのだらしない笑顔を向ける。
「フェリックス、なんか欲しいものあるか?」
「あのね、ボクね、おにいしゃんたちとわんわんがいれば、なんにもいらにゃいよ」
けなげさに、胸の奥がキュンと音を立てた。
舌っ足らずなところも
キースが、興奮した口調で訴えてくる。
「今の聞いたっ? うちらがいれば、なんもいらないってっ!」
「聞いた聞いた! マジでどんだけ
「ホント良い子すぎて、マジ天使なんだけどっ!」
キースは満面の笑みで、フェリックスの頭をわしゃわしゃ撫でまくる。
フェリックスは、くすぐったそうに笑っている。
オレもフェリックスを抱っこしたくなり、キースから取り上げる。
「だったら、フェリックスの為に
「よっしゃ! 俺の
キースは、
手をブンブン振りながら、キースはオレん家から出て行く。
「お土産いっぱい買ってくるから、楽しみに待ってろよ~」
「キースしゃん、いってらっちゃ~いっ!」
フェリックスも
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