(2)六月の過ごし方

 三幸来と一緒に遊んでから一月。保存してあった父親の死体を喰らい、さらに三人の人間を殺して喰べた。

 狩りは一瞬で終わる。

 美月の怪力に抗える者など存在しない。哀れな被害者は叫ぶ間もなく頸椎をへし折られ、予め設定したルートに従って食堂へ運ばれた。人目に付かない場所と経路を選んでいるため見張りの必要もなかった。香助の役割は些細な後始末……美月から被害者の荷物を受け取ってスマートフォンの電源を落とす――位置情報は遮断しておかなければならない――ぐらいのものだった。

 警察の動向はどうか? 香助には知る由もないが報道を通した印象では捜査が進展している様子はない。未だマスコミは殺人かそうでないかも特定できていないし、組織犯罪と見る報道が大半を占めていた。被害者数や拉致の手段を考えれば、そう推測するのも致し方ないが、半グレなどの犯罪集団を危険視するワイドショーには、全く知らないところで別の事件が起きているのではないかと不思議な気分にさせられた。

 一方、動きがあったのは学校だ。

 諌武未花が『転校』したのだ。

 理由は『家庭の都合による海外留学』。父親の会社で首のすげ替えが起こり、国内勤務が白紙になったことが理由だった。校内では拉致被害説も取り沙汰されていた諌武だったが、公式に行方が発表されたことで噂は一応終息した。一部の生徒はそれでもなお公権力による隠蔽説を疑い、ある意味それが正しいことを香助は確信していた。

 組織側からの接触は今のところない。

 もしかしたら美月を見失ってしまったのかも知れない。諌武の行動、何より被害者の増加に歯止めをかけられていない現状を考えれば自然と成り立つ推論だった。しかし、それも時間の問題だろう。いつかは補足されると覚悟したほうが無難に思えた。そのいつかが、いつか?

 産卵まで凡そ一か月。七月末までやり過ごせれば美月の目的は達成される。

 当の美月は、三幸来との交流を続けていた。

「隠れ蓑には丁度良い。せいぜい利用させて貰うさ」

 口では尤もらしいことを言っていたが、本音では彼女との付き合いを楽しんでいる節があった。学校では三幸来を交えて話すことが多くなったし、週末に送られてくるお誘いのメッセージを明らかに待ち侘びていた。三幸来も同じだ。美月と過ごせることを心から喜んでいた。ずっと仲良くしたかった相手が歩み寄ってくれている。それは彼女の人生観を変えるほど大きな出来事だったに違いない。

 平日は学校へ通い、休日の昼間は三人で遊び、夜に誰かを殺して喰べる。

 それが彼女の六月の過ごし方だった。

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