第五話

(1)月光

 一度、美月の食事を見させて貰ったことがある。

 町外れにある廃墟だった。火事で焼け残った病院で、夜になると死んだ少女の霊が徘徊していると噂されていたが誰も真相は知らなかった。実際に足を踏み入れてみると火事や幽霊はともかく廃れた病院という情報は正しいようで外観や内部構造がどことなくそれを連想させた。尤も、都合が良いのは誰も真相を知らないという一点であって放棄された理由ではなかった。数年、あるいは十数年か。人が立ち入った形跡のない廃墟の片隅で、彼女は攫ってきた人間を喰らった。

 射し込む月光に裸体を曝し、冷たい亡骸を抱き締める。

 それは血や肉を散らさないための工夫だったが、どうしてだろう。泣きじゃくる幼児が親にしがみついているようにも見えた。見捨てられまいとするように、必死に。

 そんな哀れが、いつまでも心から離れなかった。

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