第四話

(1)どっちが可愛い?

「わあ~、見て見て、沫波さん、これ可愛い~」

 白のトップスを掲げた三幸来が、無邪気にはしゃいだ。

 美月は、頬に指を添え、真っさらな生地をしげしげと観察する。

「可愛いかどうかは分からないのだけれど……八田さんの服とは形状が違うわね」

「えへへ、私ってば、ほら? ちょっと童顏だからさ。こういうお姉さんっぽいのは似合わないかな~って。でもでも沫波さんなら大丈夫! きっとモデルさんに間違われるよ~」

 美月に服を重ね、うっとりとした眼差しを注ぐ。

 一方の美月は、平静にマネキンを見上げた。

「こっちはどう? のかしら?」

「そのワンピースも可愛いよね~。YUINAちゃんがアップしてたのに似てるかも。あ! 沫波さんも彼女のことフォローしてたりする? 可愛いよねYUINAちゃん! えへへ、実は私も彼女のコーデ参考にしてるんだ~」

「ゆいな? あっぷ? ふぉろお……?」

「ほら、今日着てるのもYUINAちゃんが――」

 スマートフォンを弄り始めた三幸来を差し置き、美月はマネキンに近付いた。飾られたワンピースの裾を摘まみ、撫でたり、裏返したり、匂いを嗅いだりする。

 ふうむと唸り、値札を引っ繰り返した。

「私にはどちらが可愛いとも判断できないわね。なら価格のほうを選ぶべきなのかしら?」

 声に問いかけるような響きがあったので、香助はどきりとした。疑問を追うように振り返った彼女は、三幸来の腕から服を取り上げる。真っ白なトップスを体に重ね、上目遣いで小首を傾げた。

「ねえ、香助くん。君はどっちが可愛いと思う?」

 香助はただ、一週間前のことを思い返していた。

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