ビーフorフィッシュ

 ここまでタイミングに齟齬がないと、全てが管理下に置かれているような気分にさせられる。


「どこで食事を?」


「広間の横に料理人が腕を振るう場所があります」


 鼻高々にそう言う彼の背中に期待を見出そうとしたものの、国毎に育まれた異国の食文化に舌が不得手を訴える事は往々にしてある。あまつさえ異世界という多元宇宙論に足を踏み入れた結果、採れる食材の差異から始まり、調理方法の根本的違いや食事に対する意識を総合すると、無条件に胸を高鳴らせる事はできない。低く見積もって、口に運んだ際の上振れを慎みやかに期待しよう。


 そんな高慢ちきな心構えは、十人以上は肩を並べられる長机が三列並んだ大食堂の器量を前に、咎められた。


「凄いな」


 嘘偽りのない本音がそぞろに口から出た。


「席に座れば、料理人が手を動かし始めます」


 料理を一律にする事で効率的に食事を提供し、腹を満たしてもらうというベレトの城内に滞在する人間達をどう見ているかが、透けて見えた気がする。


「……」


 俺は目下に長机の一角に座り、指示通りに料理の到着を待つ事にした。電車の窓を眺めるかのような幅の隙間から、料理人が齷齪と動く姿が視認でき、なかなかに広いキッチンを把捉した。長机の上に等間隔に並んだ蝋燭灯と、天井から吊り下げられた照明は、蛍光灯の光の束を見慣れた現代人からすると、些か心許なく、食事に際して手元が狂ってもおかしくなかった。それでも、炎に抱く原始的な安心感は、浮き足立った俺の身持ちに深く根差し、手持ち無沙汰から爪を噛む事もなかった。


「あ、またまた。これはこれは」


 友人知人の存在に疎い俺は、その声掛けに思わず背筋を正す。そして、殊更に表情を操って振り返った。


「トラビス、よく会うね」


 いつかのテレビドラマを参考に和やかさを演じて、トラビスとの奇妙な縁を喜んだ。


「本当に奇遇だ」


 満更でもないトラビスが俺の横に腰を落ち着けたものだから、鞘から抜いた体面が長引く事を予期し、胸の中で深い溜め息をついた。


「ここでは何が食べられるんだい?」


 指遊びに興じる無言の時間を少しでも減らそうと、当たり障りのない世間話を投げた。


「肉とか魚」


 あまりにおおざっぱな括りで料理の内訳を語る。恐らくトラビスは、食への頓着を持っておらず、腹を満たすという額面通りの竹を割ったような感覚の持ち主なのだろう。


「毎日、変わるの?」


「まぁ時々だね」


 目の前に出されたものを只々、黙々と口へと運び、後腐れなくこの食堂を去る姿が容易に頭に浮かんだ。

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