味は……

「そっかそっか」


 だんだんと砕けた言い回しがそぞろに出て来たのは、年齢の差をそれほど感じないトラビスの風貌に起因する。丸みを帯びた輪郭に、ワイヤーを通したかのような鼻筋と 目尻の垂れた眼差しは、柔和さに満ちていて気後れする心配がない。気怠げな語気は若者ならではの青さから来ているはずだ。俺はそれが判る。


「柱の何番目?」


 突飛な素性の詮索に面を食らったが、俺は恙無く答えた。


「第十四柱、かな」


「気の毒に思うよ。悪魔の看板を背負わされて、しまいには世界の動静に深く関わってしまう」


 俺が思っていた事を他人の口から聞き、比類ない喜びとなって笑みが溢れた。


「ありがとう」


 誠心誠意の感謝の言葉が裏返る事なく自然と出た。人との繋がりを億劫に思い、無口を装い教室の隅で気配を絶ってきた、俺の卑屈さに凡そ相応しくない素直さだ。配膳係が両手に皿を抱えて来た際も、俺は頭を深々と下げる。


「ごゆっくり」


 品を作る配膳係の所作に釣られて、ありもしないナプキンを首元から垂らすようなエチケットが醸成され、四角い肉を焼いた単純な料理にも、敬意を払って向き合う。


「とても美味しそうだ」


 フォークにナイフ。一目を憚らず手を付けたなら、恐らく早々に切り分けて次から次へと口に運ぶ粗野な食事を見せていただろう。だが今は、愛でるかのような手つきで、ゆっくりとフォークとナイフを使い、一切れ一切れに丹精を込める。


 味付けに対する忌憚ない感想を言うならば、薄味が先行し、後味に肉の臭みが鼻に抜ける下処理の悪さを隠し切れておらず、噛めば噛むほど悪食となって喉が通らない。はっきり言って、全て平らげるのは至難の業だ。横を見ると、トラビスはその料理を何の感慨もなく食している様子から、俺の舌がどれだけ化学調味料に汚染されていたかを知る。


「美味しいね」


 俺は盛大にへつらい、なんとかこの異世界馴染もうと傾注した。しかし、


「そうか? ぼくはそう思わないかな」


 トラビスの梯子を外す感想に虚を突かれ、不味いのを我慢して殊勝にも口へ運んでいた俺の努力が水泡に帰す。ただ今は、味覚の感覚についてそれほど差異がない事を喜ぼう。


「味覚は人それぞれあるよな」


 俺は都合よく言葉を繕いやり過ごすと、如何ともし難い肉の塊と相対す。先程までの思慮深さを手放して、細かく切り刻む。そして、一気呵成に掻き込んだ。味を感じる前に喉に通すのだ。


「なんだ。そんなに腹が減ってたのか」


 気恥ずかしい指摘を傍らに俺は手を止めない。少しでも滞れば、自分の首を絞めるきらいがあった。手を合わせて礼を尽くすまで、淀みなく口に押し込む。

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