第8話 重なる気持ち②
静寂な時間が流れる。いや、正確には静かはではない。
外から聞こえる風の音や車の走行音など微量ながらに聞こえるのだ。
だが今の2人には何も聞こえておらず、和樹は自分の鼓動の激しさに驚きながらも背中に伝わる彩の温もりを感じ、彩は和樹の鼓動と温もりを感じることに集中していた。
和樹が動かないので彩は抱きしめている腕に少しだけ力をいれた。和樹は瞬時にその変化に気づき、自分のみぞおちあたりにある彩の手を見た。和樹の服を力強く握り占めている。和樹は彩の小さく握りしめられている手に自分の手をもっていき包むように優しく触れた。
『え~とっ』
どれくらいの時間が経ったか正確には分からないが、時が経つにつれて和樹は落ち着きを取り戻し声を出した。相変わらず彩は和樹に抱き着いたままでいたから。
このまま黙っているのも正直悪くはなかったが、冷静をとりもどした和樹は自分の背中にある柔らかい感触になぜか罪悪感を感じ始めていた。
彩自ら抱き着いてきているので和樹には落ち度はないのだがいたたまれなくなった。
次の言葉を探すがどう声をかけたらいいかわからずもじもじしていると、彩の手が和樹から離れ今度は和樹の背中をポクポクとたたきだした。
決して痛くはない。が、和樹は痛い痛いと言いながら彩から少し距離をとり、振り返った。
なぜかお互い正座している。和樹は久しぶりに彩の顔を正面から見たような気がした。彩は俯き《うつむき》加減ではあるが、頬が赤くなっていることが見て取れる。和樹はポリポリと自分の頬を搔きながら彩に尋ねようとした。鈍感な和樹でも流石に彩の言動から察することができた。
しかし和樹よりも先に彩から口を開いた。
『もう!遅くないけど遅い!』
いつもの彩の口調。明るく元気で優しい声。
彩は今にも瞳からこぼれそうな涙を手でぬぐい恥ずかしそうに微笑み
『ずっと和樹君からの言葉まってたんだから』
いつも凛としてしっかり者の彩が耳まで赤くさせながらソワソワしている。
和樹はそんな彩を愛おしいく感じ、好きであることを再確認し見つめながらまたしても心奪われていた。
君と出会って彼女と再会する。 オタつかさ @ota-tsukasa
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