第7話 重なる気持ち
和樹は自分自身に驚いた。そして失敗したと思った。彩から何も返答がない。
血の気が引いてくのが分かったが恐怖心はない。返って頭の中は冷静で落ち着いていた。胸に引っかかっていたモヤモヤが浄化され、先ほど涙を流していたはずなのに、先ほどとは別人と思うほどに。
彩はまだ、黙ったままだった。
どうしたものかと思案する和樹だが、真後ろにいる彩がどんな状態なのかわからない。黙っているということはしっかりと彼女に自分の気持ちが伝わったはず。
和樹は覚悟を決め声をかけた。この関係が壊れてしまうかもしれないが仕方がない。
時間は巻き戻せないのだ。
『彩……さん?』
彩『……』
彩からの返事はない。一体、彩はどうなってしまったのか?
断る理由を考えるのに苦戦でもしているのだろうか?
気になる気持ちを抑えられず和樹は恐る恐る振り返ろうとした。
『彩?』
彩の表情がギリギリ見えないぐらいのところで
『ダメ!!!』
彩が声を張り上げた。
和樹は驚き元の姿勢に戻った。そして
『ん?ダメって?』
『まだこっち見ないで……もう少しだけ』
彩はか細い声と同時にまた和樹の服の裾ギュッとを引っ張った。
和樹は待つことにした。彩の今の心境はわからないが、真面目な彩のことだから真剣に断る言葉を選んでいるのだろうかと。そして真正面を向きながら自分の発言で彩を困らせてしまったのは申し訳なく思う。
和樹はうつむき待っていた。体感としてかなりの時間に思われたが顔を少し上げ、時計に視線をおくると先ほどから5分ほどしか経っていないことに気が付いた。
これだと学校のつまらない授業の方がマシだなと和樹は思った。授業は終わりの時間が決まっているだけに気が楽だ。正にこれが針の筵というやつかと感心した。
あれやこれや考えている最中、再び時計を見やる。今度は5分も経っていない。
愕然としゆっくりと項垂れた瞬間、和樹の背中に何かがあたる。
違和感はすぐにほんの少しのぬくもりと同時にふわぁとシャンプーの香りと…
何が起きているの理解できない和樹は微動だにできずにいた。
一瞬意識が飛んでいたのか気が付けば和樹の後ろから腕が回されていた。
そして強く和樹を抱きしめていた。
『ほんとにバカ』
彩は和樹の背中に顔を沈め力弱く言った。
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