第1話 想い決行?①

 『あ…の……さぁ…ちょっと聞いてもいい?』


 弱弱しく情けない声で和樹が尋ねる。


『ん?』


 コタツ机を挟んで和樹の向かいに座っている彩が目線を変えずに答える。

 何事もないような振る舞いをする彩に対して和樹の心境は宿題をしているところではなかった。




 菜刀和樹さいとうかずきはこの冬休みにある決意をしていた。

『今度こそ皐月彩こうづきあやに気持ちを伝える』と。

 以前から思っていたことだが、なかなか勇気がでず幾度となくタイミングを逃している。

 陽キャでなくどちらかといえば陰キャ扱いになるであろう自分と、容姿端麗な

 彩とでは釣り合わない。誰がみても美女とオタクになってしまう。


『はぁ~無理に決まってるよな~』


 そう思う気持ちと、この奇跡といえる関係が気持ちを伝えることで壊れてしまうのではないかと……



 彩との出会いは高校の入学式当日。


 和樹の目に飛び込んできた大きな瞳の黒髪サラサラロングヘアーの美少女。


 全身に電流が走った。


 恋愛経験皆無の和樹でさえこれは紛れもなく一目惚れだと気づくほどに。


 もちろんクラスには数人ではあるが他にも芸能人かと思わせる美人もいたが、和樹にとっての一番はダントツに彩だった。


 しかも同じクラス。席は隣。


 胸が高鳴る。が、ギリギリ陰キャ所属の和樹にとっては影から彼女を盗み見る日々。

 時々、『おはよう』と声をかけられる、もしくはかけるぐらいの間柄。以上でも以下でもない。それでも和樹の心は満たされ笑みがこぼれるのだ。


 ある日、決して目立つタイプの女の子ではないけれど、どうしても彼女を意識し

 目で追ってしまう。

 休み時間の終わりのチャイムが鳴り彼女が席に帰ってきた。

 会話の内容までは分からないが、女子グループが盛り上がっており彼女も輪に入っていたのだ。

 席に着き一呼吸おいてから静かに


     『はぁ~』


 大きなため息だった。


 クソがつくほどまじめな彼女からとてつもなく深い深いため息。

 下を向き誰にもわからないようにしていたようだが、和樹だけが気づいた。

 意表を突かれた和樹は彩を凝視してしまった。

 和樹が勝手に作りあげた想像の〝彩〟はため息などつかない。

 まじまじと見つめる和樹に気づいた彩はハッとし、見られていたことに気づき

 恥ずかしそうに顔を真っ赤にし自分の人差し指を口元にもっていき

 小さな声で


『内緒で』


 と、和樹に遠慮がちにそして目立たないように両手を合わせた。


『うっうん』


 目がバッチリ合いまともに声もでず和樹も顔が真っ赤になっていた。

 会話や二人だけの秘密ができたことよりも彼女の意外な一面を見た驚きと

 とてつもなく可愛い仕草に和樹はひっそりと独り萌えるのだった。





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