第5話 なんとなく

「僕は、半年前、何年も会っていなかった同級生と再開しました。クラスが離れてしまってから、手紙をくれた子でした」


「手紙、ということは」


「告白の手紙です」


 そう言うと、先生は鞄の中から財布を出して、中から何かを取り出した。


「これです」


 私に見せたその手紙は、なんだか見覚えがある形をしていた。


「あれ、その手紙の折り方って、あの頃流行ってたやつ」


「みたいですね」


「えっ?あれ、ちょっとだけ見せてください」


「だめです。……それで、僕はその子と、同級生だとは言わずにカウンセラーとして会うようになりました」


「まるで、先生とわた——」


「僕は嘘をついて会い続けました」


「嘘って、同級生だって言わなかっただけなのに」


 先生は、躊躇いながら、姿勢を正しくさせた。なんとなく、私も姿勢を正して先生を見た。


「その部分ではなくて、カウンセラーの部分です。僕はカウンセラーではないです。その子と……いや、あなたとあの時の話がしたくて、嘘をつきました」


「カウンセラーの卵だって言って……あっ、まだカウンセラーになれていないっていうことですか?」


「いえ、そもそも、カウンセラーの卵でもないです」


「……そう、ですか。先生は、先生じゃない」


「はい。そして、大鷹さんが言っていた、あのクラスメイトです」


「……」


 何も言えなかった。もし、先生と彼が同一人物ではなかったら、いや、どちらにしろ、私は何も言えない。……何も聞けない気がする。

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