第3話 相違

 原稿を置いて、外を眺めている先生は、なんだかすっきりした顔をしていた。


「あの、最後まで読んでもらって言うのもあれですけど。……直接言えなくてごめんなさい。これじゃあ、カウンセリングになりませんね」


「いえ、大丈夫です。話すことだけが伝える手段ではありませんから。伝わればいいんです。僕にあなたの気持ちは伝わりました。教えてくれてありがとう」


「はい……。あの、なんでそんなにすっきりした感じなんですか?あっ、気のせいかもですけど」


 先生は何も言わずに微笑むだけで、また外を眺め始めた。


「あの……」


「あっそうだ。質問、してもいい?」


「はい、なんでしょう」


「手紙で告白した相手に、振られたって書いてあったけど、やっぱり辛かった?」


 まるで自分が関わっているような、そんな顔をしながら聞いてくるから、なんだか申し訳なくなった。


「辛かったというか、なんとなくわかってて。振られるだろうな、友達だとしか思っていないんだろうなって思ってて、その上で告白したんです。今考えると、告白しなきゃよかったなとは思います。そうしたら、今も友達でいられたかもしれないなって」


「それは違うよ」


「えっ」


「あ、いや。えーっと」


「……もしかして、先生、振ったクラスメイトに感情移入してますか?」


「へ?」


 なんだか通じ合っていないような。


「あっごめん、なんでもないよ。僕が勝手に代弁……することじゃないよね。当事者じゃないとわからないことだらけだし、当事者でもわからないことってあるもんね」


 当事者でもわからない……。


「そういえば、私、ずっと気になっていたことがあったんです」


「どんなこと?」


「告白した相手と元彼、仲がよかったみたいなんですよ」


「ん?」


「これは友達から聞いた話と卒アルを観て知ったというか、なんというか、事実かどうかはわからないんです」


「その2人が友達……になったのはいつぐらいだと考えていますか」


「え?」


「あっ、すいません。わからないですよね。わからないから気になっていたわけで」


 いつから友達って……。


「……でも、仲良くなったのが元彼と私が付き合う前だったら、すごく……ものすごく……最悪なことを……した?」


 なんだか急に心拍が早くなった。あれ?これ、色々な事実が隠されているんじゃ……。


「落ち着いて、大鷹さn——」


「あれ、だって、もしかしたら私のせいで。私が早めに——」


 私が早めに、もう好きじゃなくなってきた時に区切りをつけていれば……そもそも、元彼とも付き合っていなければ。


 ぱんっ。


 一瞬、店内が静かになった。先生が手を鳴らしたらしい。困った顔をしながらこちらを向いている。


「……びっくりさせちゃいましたね。きっと考えすぎているんだろうなと思って、区切りをつけてみました」


「あ、ありがとうございます」


「今日はここまでにしましょう」


「……わかりました」

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