第2話 微々たるもの
【この間の続きです。小学生の頃から好きだった人と付き合えて、めちゃくちゃ嬉しかった。でも、彼とはあまり上手くいかなかった。喧嘩したわけでも仲が良すぎたわけでもなくて、ただ何もなかった。
デートも学校の放課後も、ほぼ何もなかった。話す時間を作っても、友達だった小学生の頃と同じような会話ばかりで、だんだん期待しなくなってきた。月に1度くらい会いたいと思って、毎回「どこか行きたいところない?」と聞いて、候補を出してみるけど、全部断られた。一緒に行ってくれたのは、ほとんど地元のイベント。当時は、行くと言われただけで嬉しかったけど、用事が終われば解散だった。
彼に期待しなくなってからかな。先生に似てるクラスメイトと仲良くなったのは。
あっ、別に顔が似てるって言いたいわけじゃないです。まあ似てるけど。……雰囲気が似てるなって思ってた。居心地がいい雰囲気が似ているんです。まあ、そのクラスメイトと休み時間に話している時、めちゃくちゃ楽しいなって思ってた。
1年間しか同じクラスじゃなかったけど、その子とはなんだか「充実した」って言い切れるぐらい楽しく過ごせた。まあ、相手はどう思ってたかはわかんないけど。
自分から告白して、付き合えたくせに、彼氏とは別れた。なんていうか、冷めてしまってから何ヶ月も経って、ようやく決心して、別れた。せっかく両想いになれたのにって、ずっと思ってたけど、別れちゃった。
別れた後、妙に清々しかったなぁ。
クラスメイトのことは、まだ付き合っている時に気になり始めてしまって、それも別れようと思った理由だと思います。はぁ、過去の話ってぐちゃぐちゃになりますね。美化してる気もするし。】
「大丈夫です。多分理解できていますよ」
「えっ?」
急に話しかけられたから驚いてしまう。
「あっ、ごめんなさい。今、『過去の話ってぐちゃぐちゃになりますね』というところを読んでいまして」
「そっそうですか」
「続き、読みます」
「はい……」
【……実は、彼氏と別れてほんの数ヶ月しか経っていないのに、そのクラスメイトに告白をしたんです。手紙を書いて、どうにかこうにか渡して。】
「えっ」
「どうしましたか」
「いや、なんでもないです。……うーん、やっぱり少し質問しても?」
「え?あっはい。どうぞ」
先生は、言いづらそうな、そんな顔をしている。
「先生、どうしました?」
「あの、その、手紙をどうにかこうにか渡したって書いてありますけど、何回ぐらい渡そうとしたんですか」
「えっとー……1、2、……3?3回目で渡せたんだと思います」
「そうですか」
「なっ、なんか気になりますか?」
「ふふ、すいません。なんていうか、何回も断られたのかなぁとか、何度も渡し損ねたのかなぁとか考えてしまって」
そう言って、私が読むはずだった原稿の続きを真剣に読み始めた。そこまで真剣に読まれるとは思っていなかったから、恥ずかしい。昨日は、直接恋愛話を話せると思っていたけど、今日、会ってすぐに原稿をそのまま渡してしまったから、まあ仕方がない。今日も昨日と同じカフェで、同じ席。でも、昨日とは違うケーキ、昨日とは違うコーヒーを頼んだ。そうやって、毎日少しずつ変えていけば、そのうち私自身も変われるのかなって、単純に考えた。
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