第50話 二人の誓い
楽しい時間があっという間に過ぎるのは、科学的にも証明されていたんだっけ?
四人での食事は楽しくて、盛り上がったせいか、途中から私を除いた三人での酒飲み対決が始まってしまった。
結果はルクスさんの一人勝ち。
そこそこ飲めるとは聞いていたけど、あれはザルを通り越してワクだ。
顔色一つ変えないで、ワインを数本開けていた。
「二人とも大分酔ってるみたいでしたけど、大丈夫ですかね?」
「いつものことだよ。酒飲み対決と称して、シャロンが飲みたいだけ」
二人はルクスさんの部屋に泊まってもらい、ルクスさんは今晩、私の部屋で眠ることになった。
この部屋で、初めてルクスさんと並んで寝た時ほどの緊張感はないけれど、やっぱりどこか落ち着かない。
「私たちのこと、あまり驚かれませんでしたね」
プロポーズの一件については、会って直接伝えたかったので、夕食の席で初めて報告した。
二人とも「やっぱりね」という反応で、シャロンさんに至っては、「改まって話があるって言うから、子どもでもできたかと思った」と言ったので、私は鼻からシチューを吹き出すところだった。
「僕とネイドは結構話をしてたからね」
「そうなんですか?」
「ほら、ネイドが山で遭難した時とかに」
二人とも、恋愛トークをするようなタイプではなさそうだけど、ネイドさんはシャロンさんとのことがあったから、自然と話す流れになったのかもしれない。
どんな会話をしたのか訊いてみたが、ルクスさんは「内緒」と言って、教えてくれなかった。
それなら私も今度、シャロンさんと二人で色々話そう。なんて思ってみたりして。
「緊張してる?」
ルクスさんは寝返りを打って、私の方を向く。
「少し。ルクスさんは余裕そうですね」
そう言うと、ルクスさんは私の手をとって、自身の胸元へと導いた。
「僕もしてるよ。ほら」
「あまり分かりません」
私が正直に答えると、ルクスさんは声を漏らして笑う。
たぶん。いや、間違いなく、私の方がドキドキしてる。
「スズさえ良ければ、これから少しずつ一緒に寝る日を増やそうか」
「……そうですね」
普通なら、結婚する段階で一緒に寝るようになるのかもしれないが、私たちは一人の時間も大切にしようと部屋を分けたままだった。
二人で眠るのは緊張するけど、幸せで、温かい。
「そのうち二人で寝るのが当たり前になって、ドキドキすることもなくなるんだろうけど、それもまたいいなって僕は思う」
ルクスさんは私の手を握ったまま、天井に向かって呟いた。
そうだ。手を繋いだだけでドキドキするのも、今だけの特別な感情で、そういう一つ一つの瞬間を大切な思い出にしていきたい。
「喧嘩もたくさんするかもしれませんね」
「スズの方が強そうだ」
「私はそんな鬼嫁じゃないですよ。たぶん」
冗談を言って、ひとしきり笑い合った後で、触れるだけのキスをする。
自分たちのペースで、焦らず、ゆっくり、楽しんで。このカフェとともに、年を重ねていこう。
私たち二人がプロポーズの日に、約束したことだ。
「おやすみ」
「おやすみなさい」
これから先、楽しいことばかりじゃないかもしれないけど、この人となら、きっと大丈夫。
私は微笑み、瞼を閉じる。
◇◇◇
窓から柔らかな光が差し込む朝。
こんがり焼けた甘いお菓子と、ブレンドハーブの香りが漂う店内に、今日もまた、来店を告げるベルが鳴る。
いらっしゃいませ。『ハーブカフェ 木漏れ日の庭』へようこそ。
願いが叶うカフェなんて大層なものではないけれど、訪れた人にとって心癒される場所であってほしいと私は思う。
〈了〉
騎士様とハーブの箱庭 藤乃 早雪 @re_hoa_sen
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