第48話 平和の行方

 これからカフェをどうしていくのか。二人の関係をどうしていきたいのか。


 私たちは、そのまま夜通し話を続けた。


 浮かれていた、と言えばそうなのかもしれない。


 明日もカフェを開ける予定なのに、私も、ルクスさんも「早く寝よう」とは言い出さないで、ずっと話題を探していたように思う。


「そういえば、陛下の使者から手紙を受け取ったよ」

「もしかして、会談のことですか?」


 ちょうど、私たちがコンラードに帰って来る頃に、グラスティア王国とエゼライ王国の会談が予定されていたはずだ。


 手紙を受け取ってから今まで切り出さなかったということは、大きな問題にはならなかったのだろう。


 ルクスさんは、お代わりにカモミールティーを淹れてくれたついでに、例の手紙を持ってきた。


「まったく読めません」


 英語の筆記体のように見えるが、分かる言葉が一つもない。


「機密文書の伝達に使われている暗号だからね」

「読めるんですか?」

「コツさえ掴めば簡単だよ。教えられないけど」


 ルクスさんは「念のため廃棄しておく」と言って、便箋をビリビリに破いてしまった。代わりに、要点を語って聞かせてくれる。


「マルベリーの密告通り、陛下の侍従にエゼライと通じる者がいて、よからぬ企みを働いていたことが会談の前に分かったらしい」


 私は思わず息を呑む。


「……間接的であれ、エゼライの国王が自らの息子を手にかけようとしていたのは、本当だったんですね」


 酷い話だ。


 マルベリーさんが言っていた通り、エゼライの国王は、自分の肉親でさえも駒として扱えてしまうような、暴虐非道の人なのだろう。


「それで、内通者を会談まで敢えて泳がせて、調停役であるリュダディカ帝国の宰相の前で、一芝居打ったらしいよ」

「といいますと……?」

「王子の殺害を阻止して、エゼライ国王の陰謀を暴いたってこと。極めつけに協力者マルベリーの登場だ」


 どうやらマルベリーさんも、会談の場に赴いたらしい。


 その場で父親を糾弾した結果、リュダディカ帝国は彼女と、グラスティア王国側につくことになった。


 エゼライ国王とその一派は拘禁、処罰されることになり、恐らくマルベリーさんとその弟が政権を握ることになる――。


 要するに、一種のクーデターが起きたわけだ。


「ダリウス陛下曰く、エゼライ国王が、これまで蔑ろにしていた娘に赦しを請う姿が滑稽だったそうだ」

「それはまた……すごい感想ですね」


 我が国の王はきっと、高みの見物を決め込んでいたのだろう。


 自分が思い描いた通りに芝居が進む様子を見て、ふんぞりかえって愉しそうに笑っている姿が脳裏に浮かぶ。


「それで、これから二国の関係はどうなるのでしょう」

「どうもならないと思う。ただ悪化はしないかな。この国は報復を望まないだろうし、表向きは何事もなかったかのように、停戦合意のもと関係が保たれると思うよ」


 私はその言葉にほっとして、少し冷めてしまったカモミールティーに口をつける。


 なんだか、小説の中の話のようだ。


 本当だったら私は、その他大勢の国民のように、停戦合意の裏で国の平和を揺るがす一大事があったことなど、知らずに生きてたはずなのに。


 マルベリーさんが偶然店の前で倒れて、そこに偶然陛下と繋がりのあるルクスさんが居合わせた。奇跡のような巡り合わせだ。


 よく考えたら、私以外の登場人物が主役級……。


「スズにはきっと、色んな問題を集めて解決に導く、不思議な力があるんだろうね」


 ルクスさんは私を見つめて微笑んだ。


「私ではなく、この場所に色んなものを引き寄せる力があるんだと思います」


 異世界から来た私がここに行き着いたのも、そういうことなんだろう。


「何はともあれ、平和が続くなら何よりです」


 窓の外を見ると、空がうっすら明るくなり始めている。


 夜明けが近い。


 神様どうか、いるのだとしたら、この温かくて優しい時間が続きますように。


 私は左手薬指にはめてもらった指輪を、そっと指でなぞった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る