第47話 夜明けのブルーマロウティー

 閉店後、窓際の席に座って、私はルクスさんを待っていた。

 

 改まったシチュエーションに、少し緊張していたものの、ルクスさんが机に置いたティーポットを見て、気持ちがふっと楽になる。

 

「綺麗な色ですね」


 ガラスの中に閉じ込められた澄んだ青に、目を奪われる。


「ブルーマローのハーブティーは見せたことがなかったと思って。色を保たせるために、水出しにしてるんだ」

「こんなに鮮やかな青色が出る花があるんですね。あれ……?」


 私が見ている間にも、水色が少しずつ深い紫へと移り変わっていく。

 

「綺麗……」


 王都から帰ってくる時に見た、夜明け前の空色とよく似ている。

 

「面白いよね。グラスに注いで、そこのレモンを絞って入れてみて」

 

 言われた通り、氷の入ったグラスに注いで、レモンを絞って入れてみると、今度は一瞬にして鮮やかなピンクに変わった。

 

「すごい!」


 まるで魔法みたいだと私は感嘆する。


「この国では一般的な花だから、子どもの遊びに使われたりもするんだよ」

「そうなんですね。知りませんでした」

「見た目重視だから、味は薄くて淡白だけどね。シロップを混ぜて飲むといいよ」

 

 ルクスさんの言う通り、それ単体では味に深みはなかったけれど、まろやかな口当たりだ。


 それに、美しい色の移り変わりを見ているだけでも心安らぐし、ルクスさんが用意しておいてくれたシロップを入れると、ジュースのように飲みやすくなる。


 色、香り、味に効能――やっぱりハーブティーは奥深く、不思議な力があって面白い。


 もしかしたらルクスさんは、私が話しやすいように、ロマンチックな雰囲気を作ろうとしてくれたのかな?


 そう思いながら、本題に触れようとすると、ルクスさんは私の言葉を遮った。


「スズの話の前に、もう一度言わせてほしい」

 

 ルクスさんは椅子から下りて跪くと、指輪の入った小箱を差し出し、真剣な眼差しを向けて言う。

 

「これからもずっと隣にいてください」


 呆気にとられた私は、真っ白な頭で尋ねる。


「これは……プロポーズというやつでしょうか?」

「はい。プロポーズというやつです」


 正直、陛下からの褒美を受け取った時よりも、私は驚いていた。


 ルクスさんはずっと、「家族になりたい」とは言っていたけど、「結婚したい」とは言っていなかったから、一般的な恋愛や結婚とは少し意味合いが異なるのかと思っていた。


「つまり、結婚して家族になろうということですか?」

「僕も、上手く言えないんだけど、そういうことです」


 どうして急に、と尋ねる前にルクスさんは自ら経緯を述べる。


「白状すると、騎士団の元同僚たちに、そういうことは曖昧にせず、きちんとプロポーズをしてけじめをつけろと怒られました……」

「そういうことだったんですね」


 真面目な話なのに、私は思わず笑ってしまった。


 王都に滞在している間、ルクスさんがこそこそどこかに出かけていたのは、指輪を準備するためだったのかもしれない。


 恋人なし。日々の介護と仕事に疲れてボロボロだった私が、まさかこんな風に王道プロポーズしてもらえるなんて。


 ルクスさんは、周りに言われて従っただけかもしれないけど、一生のうちに一度だって経験できるか分からないことなので、素直に嬉しい。


「……私でよければ喜んで」


 返事を聞いたルクスさんは「よかった」と言って、私を思い切り抱きしめた。


 心臓がドキドキして、全身にじわりと熱が回っていくのが分かる。

 でも不思議と、不安や焦燥感はなくて、ただただ温かい。


 私は今まで、こういう穏やかな『好き』の感情を知らなかった。

 

 もしかしたらこれは、『好き』ではなく『愛おしい』と呼ぶべきなのかもしれない。


「ネイドたちに報告しないと。僕の気持ちに気づいて背中を押してくれたのは、あの二人だから」

「今度ここで、ささやかなディナーパーティーをするというのはどうでしょう」

「賛成。そうと決まれば早く日取りを決めよう」


 ルクスさんは珍しく、子どものようにはしゃいでいた。

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