第44話 別れと約束
ルクスさんとの話が終わると、陛下は私の背後に立つマルベリーさんに視線を向け、さらっと本名を呼ぶ。
「さて、ソワ王女殿下。ご足労、感謝する」
「ダリウス国王陛下、お会いできて光栄です」
マルベリーさんは、正体がバレていることをある程度予想していたのかもしれない。
狼狽えることなく歩み出て、挨拶を交わす。
「話はルクスから聞いている。貴女の情報が確かなら、じきネズミが捕まるだろう」
ということは、私たちがこの部屋に入ってきた時点で、陛下は彼女が何者かを知っていたわけだ。
素知らぬ顔で、一国の王女に給仕させるあたり、人が悪いなと思う。
「エゼライ王がやけにあっさり降伏するとは、何か裏があるに違いないと思っていたが、貴女のおかげで先手を打つことができた」
マルベリーさんが直談判するまでもなく、陛下はルクスさんからの報告を受け、既に動いてくれているらしい。
ほっとする私の横で、マルベリーさんも安堵の表情を浮かべている。
「敵国の人間の話を信じてくださり、感謝申し上げます」
「仮に嘘だとしても、警戒するに越したことはないからな。それに、エゼライ王の蛮行に反感を持つ者は多いという話はよく耳にする」
「その通りです。遅かれ早かれ、今のエゼライは内部から崩れるでしょう」
その言葉を聞いた陛下は、ニヤリと笑って言う。
「その日が来るのを、ただ待つか?」
憂いを帯びたマルベリーさんの目に、パッと光が宿る。
「いえ。父を玉座から引きずり下ろすため、協力してもらえないでしょうか」
「そうこなくては」
意気投合した二人の表情は、生き生きしているように見えた。
私は、陛下が「これから愉しくなりそうだ」と不敵に笑うのを見て、敵に回すと恐ろしいタイプだろうなと直感する。
いずれにせよ、ここから先は私の出る幕ではなさそうだ。
◇◇◇
陛下との密談の後、マルベリーさんは王城に残ることになった。
一旦、幽閉されている弟のもとへ移ることになるらしい。
陛下とはウマがあったようだし、あの様子なら酷い扱いは受けないだろう。
「スズさん、大変お世話になりました」
「私こそ、貴重な経験ができました」
私は部屋を出る前に、マルベリーさんと握手する。
「この先のことはまだ分かりませんが、事が済んだ暁には、必ずお礼に伺います」
「元気な姿でハーブティーを飲みに来てもらえたら、それだけで十分です」
敵国に与するマルベリーさんの立場が危ういことは、私でも分かる。
それでも、いつか祖国の問題が片付き、二国の関係が改善して、彼女が自由に外を歩けるようになると信じたい。
「あの……友人と言ってくださったこと、真に受けてもいいですか?」
マルベリーさんは、もじもじしながら言う。
いつも大人びているのに、こうしていると年相応――可愛いらしい、十八歳の少女に見えた。
「あの時は軽々しく言ってしまいましたが、マル……ソワ王女殿下さえよろしければ、ぜひ」
一緒に過ごした時間は一週間に満たなくて、身分も違えば、歳も離れているけれど、私は友人だと思っているし、そう思ってもらえるなら嬉しい。
「ありがとうございます。私にとってスズさんは、生まれて初めて等身大で接することのできる友人です。これからも、親しみを込めてマルベリーと呼んでください」
私は頷き、寂しさを堪えて笑顔を作る。
「マルベリーさん、また会いましょう。どうか、お元気で」
「また会いましょう。約束ですよ」
最後に私たちは、熱い抱擁を交わす。
今度会えたなら、友人として、好きな食べ物や、休みの過ごし方など、他愛のない会話をしたい。
「スズ、行こう」
私はルクスさんの手をとり、また無事に会えることを祈りながら、謁見の間を後にした。
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