第22話 ご令息のご来店
開店から二日経ち、三日経ち――今日で一週間。
ハーブカフェのお客さんは、日を追うごとに増えていった。
コンラードの街では、美味しいお菓子が食べられると少しだけ噂になっているようで、わざわざお菓子を買いに来てくれる人もいるくらいだ。
この調子なら無事、採算がとれそうでほっとする。
「やっぱりお菓子のテイクアウトが一番多いね」
「そうですね。でも、ハーブティーも少しずつ認知され始めてますよ」
今日はついに、ハーブは売っていないのかという質問を受けた。
ハーブティーを飲み始めてから体調が良くなった気がすると、毎日のように飲みに来てくれる近所の人もいる。
自分の作った食事やお菓子に喜んでもらえるのも嬉しいけれど、私はやっぱりハーブティーをこの店の売りにしたいのだ。
「家でもハーブティーを淹れられるように、ドライハーブを売るのはどうでしょう」
「作るだけ作って消費できてなかった分もあるし、いいアイディアかも」
ルクスさんはせっせとハーブを育てては、魔法で乾燥させて保管していたらしく、戸棚に入りきらないストックで貯蔵庫が埋まっている。
このまま眠らせておくには惜しい宝の山なので、どうにかして活かしたい。
「前の世界では茶葉を売るのも一般的でした。可愛い缶に入れられていたり、小分けにしてそのまま使えるティーバックなんてものもありましたよ」
「容器にこだわって、お菓子とセットでお土産になるような感じにしてもいいね」
「いいと思います! 次のお休みに考えましょう」
それを聞いたルクスさんは「休みは休むためにあるんだよ」と言って笑う。
でも今は、私たち二人ともカフェの運営が楽しくて、休みにもきっとあれこれ話してしまうだろう。
「今日はもう、お客さん来ないかな」
「お菓子もほとんど出てしまいましたし、少し早いですけど閉めますか」
冬のグラスティアは日が落ちるのが早く、夕方でも外はもう真っ暗だ。
暗くなるのが早いし、看板に灯りをつけた方がいいのかも……。
そんなことを考えながら、通りに置いた看板を回収しに行く。
「そこのお前、ルクス=ルトヴィエという男を知ってるか?」
暗闇から聞こえる声に、私はびくっとする。
振り返った先にいたのは、小さな体に似合わない、大きな革鞄を持った男の子だった。
周りに保護者の姿はなく、ここまでどうやって来たのか分からない。
しっかりしているように見えるけど、齢は六、七歳くらいだろうか。
暗がりだからはっきりとは分からないけど、黒っぽい髪と目をしているように見える。
「えっ……と?」
素性の知れない相手にルクスさんの所在を教えていいのか迷う一方で、相手が子どもなので保護すべきでないかとも思う。
孤児院では見かけなかった顔だけど、ルクスさんのお知り合いかな?
まだ幼いのに、こんな時間に一人でいて大丈夫なの……?
「このあたりに住んでいると聞いたが、父上め。嘘を教えたのか?」
ぶつぶつ文句を言う男の子に、私は腰を屈めて話しかけてみる。
「ルクスさん……という方に、何かご用ですか?」
「用事も何も、一向に家に帰らぬ兄上の顔を見に来ただけだ」
兄上? ということは、この子、ルクスさんの弟さん!?
随分歳が離れているし、兄弟がいるという話は聞いたことがなかったけれど、あり得ないわけではない。
リボンタイをつけて、お金持ちのお坊ちゃんという身なりをしていることからして、ルクスさんが養子にもらわれた先の弟だろうか。
「親御さんはどうしたの?」
「一人で来た。おいお前、兄上のことを知ってるんだろ。さっさと案内しろ」
猫のような可愛らしい見た目に反して、随分態度の大きい子だ。
でも、ルクスさんが特殊なだけで、貴族にとって庶民の扱いはこんなものなのかもしれない。
後から何かの罪に問われるといけないので、私は相手を子ども扱いするのを止め、丁重にもてなすことにした。
「畏まりました。こちらへどうぞ」
重そうな鞄を持ってあげると、男の子は黙って私の後をついてくる。
玄関に近づいたところで丁度、中から扉が開いてルクスさんが顔を出した。
「スズ、時間かかってるけどどうかし……って、エリック?」
私の背後を見て、ルクスさんは瞬きを繰り返す。
「兄上、本当にこんなところに住んでるんだ」
エリックと呼ばれた男児はルクスさんと顔を合わすなり、軽蔑したような、不貞腐れたような声でそう言った。
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