神々より強き者、異世界に降り立つ

春山

第1話 異世界への召喚

天上に広がる神々の宮。そこでは、定例の神々の会議が行われていた。

俺こと信条龍馬は、その会議を終え、ひとり静かに佇んでいた。


(今日も無事に終わったか……)


地球の調停者として、数多の問題を解決してきた。だが、その務めも長くなると、さすがに疲れを感じることもある。ひと息つこうとした瞬間——


「……またか。」


 突如として、身体が何かに引かれるような感覚に襲われる。


 これは、神々からの呼び出しの兆候だった。


 空間がゆっくりと歪み始める。次の瞬間、俺の意識は、神々の声が響く領域へと引き込まれていた。


「龍馬、聞こえるか?」


 静かに響く声。それは、この世界の創造神——リベルタのものだった。


「はい、リベルタ様。何かありましたか?」


 俺の返答に、リベルタはゆっくりと言葉を紡ぐ。


「龍馬、お前に頼みがある。」


 その一言に、俺は眉を少し動かす。リベルタが直接頼み事をしてくるのは、そうあることではない。


「ユーティアという世界で、魔神が暴れ回っている。そこの神々は必死に対抗しているが、どうにも力が足りぬ。お前の力を貸してほしい。」


「異世界、ですか……?」


 俺は少し考え込んだ。地球の調停者として数多くの問題を解決してきたが、異世界の話は初めてだ。

 しかし、気になることがある。


「その世界の神々は、対抗できないほど弱いのですか?」


 リベルタは少し沈黙し、そして静かに告げた。


「ユーティアは、我らの世界よりも“高位”の存在が支配する世界だ。」


「——は?」


 俺は目を見開いた。


「つまり……俺たちよりも、上の世界、ですか?」


「そうだ。」


 俺は思わず押し黙る。

 自分たちの世界が“下位”だと意識したことはなかった。

 だが、リベルタの言い方からして、それは紛れもない事実なのだろう。


「……なぜ、そのユーティアの神々が俺を?」


「わからぬ。だが、彼らは確実にお前のことを知っていた。そして、“お前にしかできぬ”と断言していた。」


 その言葉に、俺の胸に重いプレッシャーがのしかかる。


(俺にしかできない……?)


 なぜ、上位の世界の神々が、自分の力を求めるのか。

 疑問は尽きないが——


「……わかりました。」


 考えても仕方がない。俺は、リベルタの頼みを受け入れた。


「ありがとう、龍馬よ。」


 リベルタが手をかざすと、龍馬の周囲に柔らかな光が満ちていく。


「ユーティアの創造神アルティマには、すでに話を通してある。向こうに着いたら、まずはアルティマに会うといい。」


「わかりました。」


「では——」


 リベルタの言葉とともに、空間が歪む。龍馬の身体が、光の中へと飲み込まれていく。


 その姿が完全に消えるのを見届けたリベルタは、小さく嘆息した。


「……まさか、高位の世界からの要請とはな。」


 通常、上位の世界の存在が、下位の世界に助けを求めるなどありえない。

 それなのに、なぜユーティアの神々は龍馬を——?


「どこであやつの実力を知ったのやら……だが、無事で帰ってくるのだぞ、龍馬よ。」


 静かにそう呟くと、リベルタはふたたび神々の宮の中心へと視線を向けたのだった——。

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