暗渠
久藤 準時
第1話 親友が死んだ
すごく苦しかったと思う。
あの冷たい川の水の中で、すみれは何を思っていたのだろう。分からない。私には分からない。だって、もうすみれは死んでしまったのだから。
川村すみれが死んだという知らせを受けたのは、五月の蒸し暑い夕方だった。部活を終えて教室に戻ると、担任の山田先生が険しい表情で私を待っていた。そのまま保健室に連れていかれ、簡易ベッドに座らされた。
「中島、辛い話なんだが、落ち着いて聞くんだぞ」
先生の声が震えていた。こんな先生を見るのは初めてだった。
「川村さんが、昨夜、町を流れる月照川で亡くなった」
言葉の意味が理解できなかった。すみれが、死んだ?
昨日まで一緒に登校していた、あのすみれが?
一緒に笑って、一緒にお弁当を食べていた、あのすみれが?
「昨夜、川で溺死したそうだ。一人で川沿いを歩いていて、足を滑らせたらしい。警察が現場を調べたが、事件性はないと判断された。一応、事故死ということで決着がつきそうだ。中島、お前川村と仲良かったよな。何か、知ってる事とかないか?」
事件性はない。事故で死んだ。それで終わり。終わりなはず……ない。
「嘘ですっ。すみれが死ぬなんてありえません!」
私は思わず声を上げていた。
「すみれが事故で死ぬわけない。月照川は普段踝くらいの深さしかないんです。それに夜に一人で川沿いなんて変でしょ普通。絶対におかしい」
困ったように山田先生は眉をひそめた。
「中島、気持ちはわかるが……警察が事故だと言っているんだ。我々にできることは、川村さんのご冥福を祈ることだけだ」
先生はそう言って私を慰めたが、心の奥で何かが激しく拒絶していた。これは事故じゃない。すみれが、あんな形で死ぬはずがない。
葬儀の日、私はすみれの顔を見た。死化粧を施された彼女は、いつもの笑顔を失い、まるで知らない誰かのように静かだった。白い顔。閉じられた瞼。動かない胸。
これが、すみれ? 昨日まで生きていた、すみれ?
弔問客は次々と焼香をあげ、涙を流し、そして帰っていった。すみれの両親は憔悴しきっていて、私が声をかけることすらできなかった。母親は泣き崩れ、父親は虚ろな目で棺を見つめていた。
火葬場で骨を拾いながら、私は思った。
これで終わりなんて、おかしい。やはりおかしいと。
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