四章 ラハタとセティヌ 第四話


ジナンからラハタが出たと聞いて何日も経たないうちに、それはラジテ村にも現れた。ラハタはすぐに村の畑を荒らし始めた。毎晩のように現れ、満腹になれば帰っていく。ラハタは雑食であり、人肉を好む魔獣に比べれば、そこまで獰猛なものではない。作物を荒らしている間はまだ良い。しかし、それに飽きれば、人を食う事もある。男が被害を覚悟で十人程度で囲めば、何とか退治もできようが、囲もうとしてもすぐに逃げる。


この辺りは山地という事もあり、野菜を育てている畑も多い。冬に多いのは春に備えて植えられている芋である。麦ほどではないが、保存が利き、主要な栄養源となる。しかし、収穫期は春であり、今はまだ地下で小さな状態のままである。


ラハタは中型とはいえ、体長約三メルテにもなる。小さな種芋など、すぐに食い尽してしまうだろう。畑は深くまで掘り返され、根こそぎ駄目にされてしまう。そうすれば、翌年に育てる分までなくなる。好き勝手に作物を食い荒らしては山に帰っていくラハタをどう退治したものか、村は頭を悩ませていた。


一方、ケヤクは二人に言われた通り、森に入るのを控えていた。別に恐れたわけではない。二人の忠告が心からのものだったと、なんとなくそう感じたからだった。かといって、村の大人たちとは会いたくもない。ケヤクは昼間、寝床に一人転がって、暇を持て余していた。


ラハタの被害は増えているようだったが、あの臆病な村人たちに何とかできるとも思えない。これがオソウガなどの大型の魔獣であれば、近くの街の憲兵団が出張って来ることもあるが、ラハタ程度ではしばらく来ないだろう。


しかし、放っておけば作物は根こそぎ食い尽されるか、人を襲い始めるかもしれない。謎に包まれた新領主と話す事に気後れしていた大人たちもようやくセティヌに相談する事を決め、何人かの代表たちが話しに行った、と母から聞いた。


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