四章 ラハタとセティヌ 第三話

セティヌが赴任してきてから、数か月が経ち、季節は冬になった。この国の冬は寒い。雪は深く積もり、身体を芯から凍てつかせる。しかし、ケヤクはそれでも毎日を森で過ごしていた。熊は冬眠するが、兎や鹿などは活動する。雪に残った兎の足跡は小さいが、ケヤクはもう見逃す事はなかった。


わずかな痕跡を見つけ、追跡し、仕留める。弓は上達し、かなり離れた位置からでも目標を捉える事ができるようになっていた。さすがにこの季節に森に寝泊まりする事はできなかったが、朝早くに森に入り、日が暮れてから戻る、そんな生活を続けていた。


そんな頃、深夜にジナンとシャミルが訪ねてきた。この村で共に育った幼馴染である。しかし、もう何か月も会っていなかった。


「近くの村でラハタが出たらしい」

寝ていたケヤクを母に起こさせ、ジナンはそう言った。


ラハタ、というのは中型の魔獣である。外見はちょうど巨大な猪に似ている。短い脚に太い胴、豚のような鼻面は猪そっくりだが、その牙は上下に生えており、尾は蛇のように長く、四つの目を持つ。


普通、魔獣は戎気の濃い土地にしか出ない。聞くところによれば、魔獣は生きるために戎気が不可欠であるという。守護竜さえいれば、国土の戎気は薄くなり、そうそう魔獣が出る事もないが、竜を欠く灼竜国は、たびたび魔獣の被害に悩まされていた。


「……それを言うために、わざわざ来たのか?」

「お前、いつも森に行ってるだろう」


ケヤクはぷい、と顔を背けた。


「……いつ来ても会えないから……。だから、夜に来たんだ」

遠慮がちに言ったシャミルにもケヤクは答えなかった。

「ラハタは危険だ。森に行くのはしばらくやめとけ」


返事をしないケヤクに諦めて、二人は出て行こうとした。


「……サーシェの事、忘れろなんて言う奴らと一緒にいたくない」


ケヤクはぼそり、と呟いた。ジナンが足を止め、振り向いた。


「……俺たちは……そんな事言わないから」

最後にそう言い残し、二人は帰った。

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