第146話 裏茶会

 転移した先は真っ暗な空間だった。辺りを探れば、どうやら通路の突き当たりらしい。

 オレたちは壁に手を付きながら先へと進んだ。


「これって、どこに続いてるんだろう?」


 前衛であるマヤが疑問を口にする。


「さあな。アウルムなら、まだマシだと思っといた方が良い」


 と言うオレの答えに、


「トレシー、大丈夫かしら?」


 マーチがそんな言葉をこぼす。

 確かに、あんな巨大亀に地元が襲われているかと思うと、気が気じゃないだろう。

 ブルースに連絡しておいた方が良いだろうか? オレがウインドウを開いたところで、


「先に光が見える。扉があるみたい」


 とマヤ。ブルースに連絡するのを一旦止めて扉の前へ。

 オレたちが扉の前に立ったところで、内側から扉が開けられた。


「おや? 意外なお客様ですね」


 扉を開けてオレたちに応対したのは、フィーアポルトの海賊貴族のところにいた、シャークだった。



「何なの? ここ」


 扉の先の部屋には、大きな丸テーブルがあり、壁にはいくつもの扉が設えられている。

 何より、丸テーブルに着いている面々が、この部屋の怪しさを何倍にも跳ね上げていた。

 シャークやタコ野郎、海賊貴族のところにいた面子に、レクイエムがこちらをニヤニヤ見ている。商人とおぼしき者や、貴族らしき者、大道芸人の格好をした者など、十人十色、千差万別だ。そして、


「悪魔、か」


 山羊のような角を生やした者が何人か見受けられた。


「へえ、アタシらを見てすぐに悪魔と見当つけるなんて、あんた悪魔に会ったことあるのかい?」


 胸元の開いた扇情的な服装の女悪魔がオレに語り掛けてくる。


「彼らがサードを倒したリンタロウくんたちですよ」


 オレの代わりに答えたシャークの言に、部屋に緊張が走り、うちの仲間が武器に手を伸ばそうとするのを、オレは手で制する。


「だったら、何か問題でも?」


 オレの挑発的な語りに、


「フハ、確かにな。悪いな兄ちゃん。こっちも熱くなりやすい奴が揃っててよ」


 椅子の背もたれに体を預けた一際大きな悪魔が、こっちも挑発的に言葉を発する。


「で、何しに来たんだい? 兄ちゃん。事と次第によっちゃあ、生きては帰れないぜ?」


 帰れないのは決定事項なのだが。


「ダンジョンに迷ったら、ここに出ただけだよ。邪魔ならすぐに出ていくさ」


 オレの言に、長い顎ヒゲの老人が目を光らせる。


「嘘は、吐いておらんようじゃな」


 何かしら、看破する能力でもあるのだろうか?


「ふふ、まあ、立ち話もなんでしょう。どうですか? 一緒にお茶でも」


 シャークは人の良さそうな笑みを浮かべて、オレたちをお茶に誘ってきた。本気かよ?


「ようこそ、裏茶会へ」



「ブフフフハ! マジか? 大亀に食われたと思ったら、中に魔法陣があってここに転移した? どんな楽しい人生送ってんだよ」


 タコ野郎とレクイエムが大笑いしている。


「ファーストも、もう少し場所を選んで転移陣を置いて欲しいですね」


 シャークは冷静である。

 なんだかんだでオレたちはこの怪しげな茶会に加わっていた。そうしないと、出れそうになかったからだ。


「しかし、ちょっと見ない間にメンバーが代わりましたね? 確か今は、情報によるとブックマンと行動をともにしていたのでは?」


 シャークがお茶を飲みながらそう質問してくる。


「ブックマンはアダマスに行ってるよ」


 と和やかだった部屋の雰囲気がピリッとする。


「ああ、あのチーター。ブックマンが片してくれるのですか?」

「知ってるのか?」

「知ってるも何も、アタシらの今回の議題も、そのチーターどもだからな」


 とは女悪魔だ。


「オレらとしても、世界を混乱させて楽しんではいるが、壊したい、とは思っていないからな」


 と大男の悪魔。なるほど。ここにいる面々としても、チート使いにはいて欲しくないのか。


「リン」


 とオレの横に座っているマーチが袖を引っ張る。その顔は心配そうなものだった。ふむ。


「悪いが、亀の件がまだ終わってなくてな。ここらでお暇させてくれ」


 オレに意図が通じてホッとするマーチ。


「アウルムに通ずる扉ってどれ?」


 オレの問いに、レクイエムが顎をしゃくって指し示した扉を、シャークが恭しく開けてくれた。



 暗い通路を歩いていくと、また、光が漏れた扉に突き当たった。その扉を開けると、


「ここって……」

「あら? あなたたち、どうして城にいるの?」


 とオーロ王女に声を掛けられた。そこはアウルム王城の通路に繋がっていたのだ。


「オーロ王女! トレシーでヌシサマが!」


 とオレたちが状況についていけない中、マーチが開口一番王女に話し掛ける。


「ああ、それを訴えに来たのね。大丈夫よ。トレシーのヌシサマは、トレシーの冒険者プレイヤーが一丸となって倒した、と報告を受けているわ」


 あの巨大亀を!? マーチはそれを聞いてホッとしているが、オレは思った以上にトレシーの冒険者のレベルが上がっていることに、今度の武闘大会、ライバルが多そうだ。と少しげんなりするのだった。

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