第147話 蝗災

「そうでしたか。この城にそのような場所へ通ずる扉があったなんて」


 以前通された応接室で、オーロ王女に今回のあらましを話しておいた。


「しかし、兵にあなたたちがいた場所を探らせましたけど、あの通路には、そもそも扉自体ありませんでした」


 いや、そんなのオレらに言われても。オレたちは互いに顔を見合せる。あの茶会自体存在しなかったかのようで、まるで狐につままれたようだ。


「さりとて門衛に確認したところ、あなたたちの通行履歴は無し。空でも飛べると言うなら別でしょうけど」


 頬に手を当て嘆息するオーロ王女。すみません、空、飛べます。


「まあ、このことはお父様にも上げておきますわ。最近、場内で不審な人影を見た。なんて話もちらほら聞きますから」


 いや、それ絶対裏茶会の誰かが出入りしてるだろ。でもまあ、この国の王族は、なんだかんだ悪魔と折り合いつけてやっていきそうだよなあ。



 その後もクランを作ったことや、新たなクランメンバーを紹介したりして、そろそろお暇しようか、というところに、コンコンとノックの音が響く。


「失礼します!」


 兵士の一人が部屋に入ってきて、王女に耳打ちする。だが、それを聞いた王女は、良く分からない、と言った具合に首を傾げた。


「どうかしたんですか?」


 思わずオレは尋ねていた。


「何でもこの国の大穀倉地であるゼクスゲトライデで、バッタ? が大量発生したとかなんとか?」


 それを聞いたオレはすぐに立ち上がったが、それに呼応してくれたのは烈牙さんだけだった。他の皆はキョトンとしている。


「え? 何? そんなに大事なの?」


 マヤが皆を代表するように質問してくる。


「大事と言うより、災いだよ。蝗害、または蝗災って言ってな。空を埋め尽くすほどに大量発生したバッタが、あらゆるものを食べ尽くしてしまうんだよ。放っといたら大量の餓死者が出るぞ」


 オレの言葉にその場の皆の顔が青ざめていく。そして違う、と言って欲しくて皆は烈牙さんの方を見遣るが、深く頷かれるだけだった。


「確か、ゼクスゲトライデはフュンフヴェステンの北だったな。と言うことはここから北西か」


 オレは応接室の窓を全開で開け放つ。


「す、すぐに馬車を用意します」


 オレは、狼狽えるオーロ王女に振り返って笑顔を見せると、翼を広げてみせた。


「馬車は大丈夫。飛んでいった方が速いから」


 その日、アウルム王城から九羽の天使が北西へ飛んでいくのを、城下町の何人もの人々が目撃していた。



「嘘でしょ!?」


 ゼクスゲトライデ上空に到着したマヤの第一声だ。その言葉にはオレも同意である。

 一面緑映える穀倉地帯のはずが、今やそれを覆う黒い無数の点、点、点、とそれらがゾワゾワゾワ蠢いているのだ。見ているだけで鳥肌が立ってくる。集合体恐怖症でなくても辛い。


「ねえ? あそこに突っ込むの?」


 マヤの、と言うか皆の顔が引きつっている。特に十子なんて顔面蒼白である。どうやら虫はお嫌いらしい。

 まあ、好きだろうが嫌いだろうが、あれを見て怖気おぞけを催さない人間とは友達になれそうにないが。


「まずはオレが突っ込むよ」

「「「ええ!?」」」


 いや、そんなに驚かなくても。


「オレの引力魔法を最大にして、バッタを一ヶ所に集めるから、それを駆除してくれ」


 なるほど、と一同が頷いたところで、オレはバッタの中に突入していった。


 痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!

 バッタの奴ら見境ないな。人だろうが何だろうが、餌だと思って噛みついてきやがる。これに備えて全身鎧を着てきているが、バッタには対応していないようだ。隙間にかじりついてくるバッタ。

 斥力バリアを使いたいところだが、引力に今は集中したい。

 地に降り立つと、さらにバッタが寄ってくる。視界一面バッタで、一時間もこの中にいたら死ぬ。とオレの勘が警報を鳴らしてした。

 そんな中で、オレは集中力を切らさないようにしながらパスを自分を中心に球状に広げていく。そしてオレのパスに入ったバッタにチェックを入れていき、あとはこのチェックの入ったバッタを、引力でギュウっとすれば、ほら、デッカい一匹のバッタの出来上がり…………!?



 何故かバッタはバッタ同士くっついて、デッカいバッタとなってオレを襲ってきた。


 ズバッ!


 それを一刀両断する烈牙さん。


「なるほど。こうすればバッタも容易く倒せるのう」

「いや、バッタがくっついてデッカくなったことに驚いて!」


 が烈牙さんは首を傾げる。


「そのような魔法じゃないのか?」

「魔法じゃないです。明らかにおかしい。このバッタ、魔物か?」


 烈牙さんに斬られた巨大バッタの残骸を見れば、素体となったであろうバッタの死骸に無数の魔核。どうやら本当に魔物だったらしい。が、その死骸と魔核はすぐに周りのバッタたちによって食べ尽くされてしまった。そして食べ終わったバッタが、二体に分裂した。

 !? これはヤバい! こんなの無限増殖するようなものじゃないか!

 オレは慌てて、どんどんと引力魔法を使ってデカバッタを作り上げていく。

 そこに突っ込んできてデカくなったバッタを倒していくクランメンバーたち。一人上空に残った十子も、弓でこれでもかと言うくらいにデカバッタを撃ち倒していった。



 どのくらい経ったのだろうか? 中天を過ぎたくらいだった太陽はいつの間にか沈み、月が東から西に場所を代えた頃、空は白み始め新たな太陽が昇ろうという時だった。

 これ以上はもう無理だ。オレは気力を振り絞って一帯に残ったバッタ全てをかき集め、特大のバッタを作り出したところで気絶した。



 10分ほど、オレは寝落ちしていたらしい。

 マヤに襟首掴まれぐわんぐわん揺すられて、オレが目を覚ました時には、全て終わっていた。

 昇る朝陽は綺麗でした。すぐに眠ったけど。

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