第137話 兵は神速を尊ぶ

 結局初日は夜明け前のあの一戦で終わった。こちらが攻めることはなかったし、向こうが攻めてくることもなかった。



 翌日。日はすでに山頂を越え、あと一、二時間で中天へと差し掛かるだろう。


「今回は挟撃を仕掛けようと思う」


 レーゲンランドの天使たち全員を集め、会議室で作戦の説明をする。


「右部隊をマーチ。左部隊をブルースが率いてくれ。マヤの部隊は現状のまま食糧庫の防衛。決行は昼、太陽が頂きに上りきったところで始める」


 とオレが説明し終わるとマーチが手を上げて質問してきた。


「敵が私たちの挟撃には構わず、真ん中に部隊を集中させてきたらどうするの?」

「オレが対応する。そのために部隊を四つに分けてるんだからな。ダメそうならすぐに連絡して戻ってきてもらうよ」


 マーチだけでなく、ブルースやマヤまで明らかにダメそうって顔で見ないで欲しい。


「ほら、もう時間ないから、急いだ急いだ」


 オレは作戦会議を打ち切り、手を叩いて皆を急かす。天使たちは急いで会議室を出ていくが、三人は残ったままだ。


「何?」

「ホントに、ヤバくなったら連絡しなさいよ?」


 とはマヤ。


「リンはすぐ死ぬ」


 とマーチ。


「危なくなる前に連絡しろ」


 とブルース。


「皆優しいねえ」


「「「お前が死ぬと天使たちが困るんだよ」」」


 と三人にへこまされてしまった。



 中天に日が座する。戦闘開始である。

 右翼と左翼に別れ、マーチとブルースたちが地を這うように翔ていく。敵陣地はと遠視で見ると、


「何だありゃ?」


 敵陣地前で、烈牙さんが一人で太刀を杖のように地に突き刺し、デンと構えている。

 今回は完全に受けてたつってことなんだろうか? それにしても烈牙さん一人で何ができるのか?


『どうする?』


 とブルースからパスが入る。


「放っといていいよ。オレたちの目的はあくまで食糧だ。陣地の方を攻めてくれ」

『了解』

「マーチも、烈牙さんは放っといて陣地を攻めてくれ」

『了解』



 作戦通りにマーチとブルースが大きく迂回して敵陣四の丸を攻撃しようと、烈牙さんがいる一線を越えようとした時だった。

 それは瞬速と呼ぶのもおこがましい、神速だった。

 烈牙さんが翼を広げたと思った次の瞬間には、すでにブルースのすぐ側にいたのだ。

 ブルースはガトリング銃を構え攻撃体勢に入っていたが、その鋼鉄ガトリング銃を、烈牙さんの刃はバターのように斬り裂いた。

 ブルースはすぐにその場を離れ、二挺の拳銃を抜いたが、眼前に烈牙さんの姿はなかった。

 烈牙さんは踵を返したかと思うと、あっという間にマーチに肉薄し、マーチはその神速の剣技に防戦を強いられる。

 マーチは人形と二人掛かりの四刀流だというのに、手数で烈牙さんが上回っていた。


「ブルース! マーチの援護を頼む! 他の者は四の丸を攻めろ!」


 オレの指示の元、ブルースたちが動き出す。

 烈牙さんがそうはさせまい、と動こうとするが、ブルースの拳銃がそれを留める。ブルースの拳銃はポーチと薬莢で繋がり、球数制限の無い無限拳銃となり烈牙さんを襲うが、弾丸を太刀で跳ね返す烈牙さん。嘘だろ!? マンガやアニメじゃあるまいし、いくらゲームの中とは言え、こんなことができる人がホントにいるとは驚きを通り越して恐怖する。

 ブルースとマーチの兄妹らしい息の合ったコンビネーション攻撃でも、烈牙さんの神速の太刀の牙城を崩すには至らない。


『リン! 島下部から敵部隊が現れたわ!』


 とマヤから連絡が入る。オレは選択を迫られる。マヤの方へ救援にいくべきか、ブルースとマーチを助勢するか。

 見れば四の丸でもかなり激しい戦闘が繰り広げられていた。


「オレの部隊はマヤの方へ向かってくれ」


 とオレが一歩後ろに控えていた副官に指示すると、


「長はどうされるのですか?」


 と返ってきた。


「ブルースとマーチのところへ行く」

「…………分かりました」


 それだけ言うと副官は作戦指令室から出ていった。オレはその場で翼を出すと、中空へと翔だし、猛スピードで二人の元へ向かった。



「はあああ!!」


 戦闘中の三人の上を取ったオレは、一撃必殺とばかりに翼を消してグラデイオマギアを取り出すと、斥力ブレードを烈牙さんに叩き込んだ。

 が、何でもぶった斬る斥力ブレードを、烈牙さんはその太刀で受け止めたのだ。


「嘘だろ!?」


 着地しながらオレは冷や汗が止まらなかった。


「ふむ。中々の名刀とお見受けするが、我が愛刀「麒麟児」とて負けてはおらん!」


 とオレに斬り掛かってくる烈牙さん。オレは斥力ブレードが止められたショックでボーっとしていたようだ。あっという間に距離を詰められ、大上段からばっさり、というところでマーチが横槍を入れてくれた。


「すまん!」

「何しに来たのよ!」


 オレは気を取り直して、三人で烈牙さんと戦うが、ホントにこの人同じ人間なのか? と思ってしまう神速の剣技に体捌きに、むしろこちらが翻弄されていた。


『リン! 二つ食糧庫がやられたわ!』


 とその間にもマヤから連絡が入ってくる。何かしら指示を出したいが、オレが抜ければこの場は烈牙さんに傾き瓦解する。と、


『四の丸落としました!』


 との連絡がパスで入ってくる。


「全員退却!!」


 オレは指示と言うより大声を張り上げ、全員が敵陣地から離脱していった。

 マヤの方もそれ以上の被害にはならず、こちらが退却したのと同時に退却してくれたようだ。

 二日目もまた痛み分けで終わったが、烈牙さんの異常な強さに、この先をどうするか、オレは悩まされることになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る