第138話 朧月夜の決闘

 今宵は月に薄曇り、朧月夜というやつだ。

 月も雲のベッドで寝静まる夜に、独り足音を立てずに平野を歩く者がいる。熱波烈牙という侍だ。


「おるのじゃろう? 分かっておる」


 どうやら岩影に隠れて機会を伺っていたのはバレていたようだ。オレたち四人は素直に岩影から姿を現す。


「烈牙さんこそ、こんな夜遅くに散歩かい? 悪いがそこから先は私有地なんだ。回れ右して帰ってくれるかい?」


 だがオレの忠告に烈牙さんはただ「ふふ」と笑うだけだ。


「四人……か。確かもう一人いたと思ったが?」

「ブックマンなら陣地で待機してるよ」

「三人で駄目でも、五人は多い、と?」


 まあ、そういうことだ。オレたちは烈牙さんの対面に立ち、それぞれ得物を構える。マーチが人形を、ブルースが二挺拳銃、マヤは大盾、そしてオレは礫弾用の銅貨だ。

 それに対して太刀を抜き放ち正眼に構える烈牙さん。


 風が平野を駆け抜ける。


 まず先に動いたのはオレだ。マヤの大盾に隠れながら大量の銅貨を撃ち出す。それをまさか全て叩き落とす烈牙さん。やっぱり人間業じゃない。

 だがその隙にマーチとブルースが烈牙さんの左右を取り挟撃する、がそれさえ捌いてみせる烈牙さん。

 だが甘い。オレは烈牙さんにパスを送り、烈牙さんを引力化させる。周りの銅貨が、弾丸が、小太刀が、上手く動けない烈牙さんに向かって襲い掛かる。


「ぬおりゃああああ!!」


 だがオレの引力を気合いで弾き飛ばした烈牙さんは、かすり傷を負いながらも、全ての攻撃を叩き落としてみせる。


「くっ、まずはそちらから散ってもらおう!」


 と烈牙さんが瞬間移動のような速さでこちらに斬り掛かってくる。


 ガギイイインン!!


 朧月夜に金切り音が響く。だがマヤの大盾は斬れていない。いや、正確にはかなり深く切り込みが入ったが、まだ盾の体裁を保っていた。

 そこにマーチとブルースが後ろから攻撃してくる。が、これをまた瞬間移動でかわす烈牙さん。が夜道は足元注意だ。


 ドンッ!


 オレが仕込んでおいた爆弾岩を烈牙さんが踏んで上空へ吹き飛ばされる。

 やった! と思ったのはオレだけだったようだ。

 バサリと真っ白の翼が夜空を舞う。烈牙さんは足に多少の裂傷や火傷は負ったが、動けないほどには至らなかったようだ。

 くっ、と心の中で舌打ちしながら、オレたち四人も翼を出して空に昇る。


 空中の烈牙さんはさらに天衣無縫だった。

 前後左右に加えて上下まで駆使して、神速の烈牙さんの剣が舞う。その神速剣舞に翻弄されるオレたち。

 だが、だからこそ、ここで烈牙さんを討っておかなければ、後々オレたちはさらに不利になる。


「マヤ!」

「ええ!」


 ガギイイインン!!


 マヤが大盾ごと突進したことで、またも金切り音が響く。今度は大盾の真ん中まで太刀が突き刺さり、マヤの腹から血が流れた。

 だがマヤはそんなことは気にせず、ガシッと烈牙さんの腕を掴んだ。


「今だ!」


 オレの声を待つまでもなく、マーチとブルースが烈牙さんに襲い掛かる。

 が、これでも烈牙さんを倒すには一歩足りなかった。烈牙さんは素早くマーチの小太刀を奪い取ると、掴まれた腕を自ら切り落とし、その場から脱出する。


「はあ、はあ、はあ」

「はあ、はあ、はあ……、今宵もまた、痛み分けのようじゃな」


 マヤが腹の痛みで平野に落ちそうになるのを、マーチとブルースが支える。それを見送りながら、片腕の侍は悠然と陣地に戻ろうとしていた。


「それはどうかな?」


 そこにレーゲンランドの陣地から一条の光が舞い込み、烈牙さんを貫いた。と思ったのだが、オレたちの奥の手は寸でのところで烈牙さんにかわされてしまった。


「ふふ、やはり五人目はおったようじゃな」


 そう言って烈牙さんは振り返りもせず陣地へ帰っていった。



『どうなった?』


 とブックマンから連絡が入る。


「すまん、失敗した。ポーションを持ってこっちに来てくれ」


 だが、失敗ではあったものの、烈牙さんから麒麟児という愛刀を剥ぎ取ることができたのは大きいだろう。肉も骨も切らせて、やっと刀一本か。やれやれ。

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