第136話 日が昇る

 山上の陣地に設置された物見櫓から、バフで強化した遠視で夜が開ける前の薄明かりの世界を眺めていると、マーチの部隊が地を這うような高さを猛スピードで飛んでいくのが見えた。


『長! 敵陣営山頂からこちらに向かってくる敵影あり! 数は十一』


 上空で哨戒中の天使からの連絡。


「分かった」


 オレも山頂の方に視線を向けると、確かに隊列を組んだ天使たちがこちらへ向かって来ている。


「マーチ、上空を敵さんが飛翔中だ。向こうが攻撃してくるようなら、攻撃してくれ。でなけりゃそのまま敵陣地に向かってくれて構わない」

『了解した』



 マーチ部隊と敵部隊はこちらが先に出たことに加え、風の影響を受けづらい低空を高速で飛翔していることもあり、敵地近くの平野で上下に接敵することになった。

 そこは平地と言ってもデカい岩がゴロゴロしているような場所で、草一本生えていない。

 先に構えたのはヴォルケランドの天使たちだ。これ以上マーチ部隊を行かせないため、上からというアドバンテージを活かすため、マテリアルという質量系の魔法を放ってきた。

 マテリアルで造られた無数の黒い弾丸が、元のスピードに重力加速を加えてマーチたちを襲う。がそれはマーチ部隊も予測していたのだろう、ある者はジグザグに避け、ある者は盾で、剣でそれを防ぐ。マーチは背負っていた人形が盾のように変化して弾丸を弾いていた。

 あの形状想起合金、重くないのか? とマーチに一度聞いたことがあったが、意外と軽いものであるらしい。


『リン、すまん!』


 とはブルース。今日二度目の「すまん」である。


「どうした?」

『ヒンメル下部に増援部隊がやって来て、一部が突破された』


 ということはマーチたちが戦っているのは防衛と、陽動の部隊か。


「分かった」

「マヤ、そっちに敵がやってくる、相手を頼む」

『了解』

「マーチ、そっちは陽動と防衛の部隊だ。叩いていい」

『了解』


 オレの指示を受けてマーチの部隊が上空へと上がっていく。が、そこに山城の方から援護射撃が撃たれてきた。くっ。


「すまん! 一旦引いてくれ!」

『了解』


 すぐさまマーチ部隊は敵陣前の平野からこちらに向かってくる。あまり深追いをしてこないところから見ても、やはり陽動か。くっ、烈牙さんの方が戦術が上な気がする。が、そうも言っていられない。


『リン、敵影出現。数は二十は超えるわね』

「分かった。マーチをそちらへ向かわせるから、それまで持たせてくれ」

『了解』


 マヤの返事とともに山の裏での戦端は開かれ、爆音や炸裂音がこちらまで響いてくる。とはいえこちらは敵の倍以上が防衛に当たっている。よほどでなければ突破は難しいだろう。

 そう思いながら山の反対側を見ると、敵部隊は一丸となって食糧庫を一庫一庫撃破していく作戦のようだ。

 突撃槍を持った数名を先頭に、まさに一丸となって一番左下の食糧庫に突っ込んでいく。が、それは悪手だな。とオレは心の奥で笑ってしまった。


 ドンッ!!


 ヴォルケランドの部隊が突っ込んだ先の食糧庫が、大爆発を起こす。不測の事態ではない。オレがそう仕掛けておいたのだ。

 25個ある食糧庫のうち、本物は半分以下で、残りには爆弾岩が仕掛けられており、食糧庫の扉を開けるなり、食糧庫に衝撃を与えるなりしたら、今みたいな大爆発が起こる。

 ふっふ、これはしてやったりだな。今の突撃で敵部隊は半数が戦闘不能に陥り、残り半数が山を右に迂回するように逃げていく。


「マーチ、右側に迂回してくれ。逃げ出した敵部隊と遭遇するはずだ」

『了解』


 山近くまでには戻ってきていたマーチ部隊も右に、オレから見たら左に進路を変更する。とそこで両部隊が遭遇したところに、


『長! 敵山頂から敵影あり! 数は先ほどと同じく十一! ただし先ほどと違い、地を這うようにして猛スピードで接近してきています!』


 くっ、救援部隊か。


「マーチ、こちらに怪我人が出ない程度で逃がして構わない。敵側から救援部隊が向かってきている」

『了解』



 マーチは敵部隊から二人ほど倒すことができたが、残りは逃がすことになった。

 ブルースの部隊も激戦だったらしく、敵陣地にたどり着く前に半分まで人数を減らされたため、これ以上の戦闘継続は不可能と考え戻ってきた。

 無事だったのは防衛部隊のマヤたちだけだ。


「ハァーーーーー。作戦の練り直しが必要だな」


 オレは作戦指令室で独り椅子に座ると、ヒンメルの地図とにらめっこする。

 日はやっと山の上に顔を出したところだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る