第130話 サムライ王キバ伝
島の端に立って下を覗く。
普通そんなことをすれば見えるのは海の水だ。そういった意味では、このヴォルケランドも同じかも知れない。間に広大な空が広がっていなければ。
ヴォルケランドは浮遊島。山より高い上空を、どんな理屈か浮いてる島だ。
何故オレたちがこんなところにいるのかは、オレたちにもよく分かっていない。
その日、オレたちは冒険者ギルドのお使いでカルトランドまで出向き、その帰り道に天使を拾った。
何を言っているのか分からないかも知れないが、その通りなのだ。白い翼を生やし鎧に身を包んだ女天使が道端に野垂れてたのだ。
当然、何事か? とオレたちは思いその天使に声を掛けた。その時だった。自分たちが光に包まれたかと思うと、気付けば違う場所にいた。天使たちに囲まれていたのだ。
何でも訓練中に墜落してしまった天使を引き上げるときに、間違えてオレたちごと引き上げてしまったそうだ。
普通ならば秘密保持のために死刑に処する大問題だったらしいのだが、こちらにカナリアがいたことで話が変わってきた。
不死鳥は浮遊島ヴォルケランドでは聖鳥とされていて、その聖鳥を助けたオレたちは、ヴォルケランド側から客人として迎え入れられた。
そんな訳でオレたちは今、空の上に浮かぶ島を散策しているところだ。
「あり得ない」
もう定番になったブックマンの呟きは放っておくとして、オレには気になることがある。
「なんだかすみません。巻き込んでしまって」
カルトランドへの依頼には、オレたちの他に一人の剣士、いや、侍が同行していたのだ。
白髪の長髪を後ろで一つに結び、太刀を腰に佩いた、立派な口髭を生やした男、
「なんのなんの、お主らのお陰で貴重な体験ができて、嬉しいくらいじゃよ」
じゃよ、ッスか。まあ、この状況を楽しめているのなら、こっちとしては溜飲が下がるけど。
「しかしなんとも綺麗なところじゃな」
じゃな、ですか。まあ確かに、浮遊島の景観は、ここが天国だと言われても信じてしまうくらいに美しい場所だとオレも同意できる。
「しかし、このような場所でも争いはあるんじゃのう」
じゃのう、ときたか。そうなのだ。何故天使が地上に墜落してきたか、というと、何でも近々もう一つの浮遊島と戦争をするため、その訓練をしているのだという話だ。なのでオレたちが地上に帰れるのはその戦争の後になるのだという。なんとも剣呑な話である。
「困ったもんじゃのう」
「あの」
「何じゃね?」
「それって何かのロールプレイなんですか?」
オレは思いきって聞いた。聞いてしまった。だって「じゃ」なんて老人だって使わないだろ。
「おお、分かってしまったか。これはのう、『サムライ王キバ伝』と言う昔流行ったアニメ出てくる主人公、
アニメの主人公でもサブ主人公でもなく、主人公の父親のロールプレイって、ニッチだなぁ。
「ふふ、ワシも若かった頃は主人公の空牙に憧れ、居合道を学んだもんじゃが、この年になると、その父、烈牙の良さに気付いてのう。こうして身も心も烈牙となり、烈牙のように武者修行の風来坊をしておるんじゃよ」
「はあ、そうですか」
何だか分からないが、烈牙さん的には熱いものがあるらしい。こういうのには触れない方がよさそうだ。
「どうじゃ、リンタロウ殿。お主もサムキバを見たくなったか? 今ならストリーミング配信で見放題じゃぞ!」
「え? ああ、今度見てみようかなあ、なあんて」
「はっはっはっ! それは良い心掛けじゃ! 損はせん! 人生を学ぶ良い指針となるじゃろう!」
オレよ! 何故そこでハッキリ「NO!」と言えないのだ。典型的日本人気質が嫌になる。
「皆様。お食事の用意が調いました」
まだまだ話し足りなそうな烈牙さんだったが、天使さんがわざわざ呼びに来てくれたのを無下にもできない。話は一旦中断となり、食堂へと場を移すことになった。
「皆様。戦争の日取りが決まりました」
食堂に全員座すると、最奥の席に座していたこの島の首長である女天使さんが、一旦立ち上がってそう告げる。
へぇ、実際の戦争とかよく分からないけど、突発的に戦端が開かれる訳じゃないんだな。
「この戦いには、不死鳥カナリア様が掛かっています。絶対敗けられませんよ!」
天使たちから鬨の声が上がる。いや、ちょっと待って、どう言うこと?
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