第128話 外酷城攻略戦4
彼女は歌っていた。まるで全ての生命に哀悼を捧げるように。
灰色の長髪に赤のメッシュが入った、オレと同じ年ぐらいの女の子だ。髪と同じような色のドレスに身を包み、最上階の吹き抜けで、彼女は歌っていた。
「いらっしゃい」
彼女にそう言われるまで、オレたちは彼女が歌い終わったことに気付いていなかった。ハッとなって慌てて皆武器を構える。
「あんたが、不死鳥さんかい?」
「ええ、そうよ」
その瞳は紅く憂いを帯びていた。これ程悲しそうな瞳をしている人物をオレは見たことがない。
「あなたたちも、私の血肉を欲してここまできたのでしょう?」
「いや、違うかな?」
「え?」
うん、そりゃあ驚くよね。オレたちはヤースープ公妃閣下のワガママで外酷城を攻略していただけで、不死鳥の血肉は必要ないのだ。
「でも、ここにくるまでに幾人もの仲間が命を落としたのでしょう?」
「いえ、一人も死んでいませんけど?」
「え?」
「え?」
さっきまでの憂いを帯びていた瞳が、点になっている。驚き過ぎじゃね?
「じゃあいったいどうやってここまで来たんですか?」
公妃側近の精鋭には、お茶の心得もあるようだ。よく磨かれ、意匠の凝られたテーブルに、ほどよくクッションの入った椅子が精鋭のマジックボックスから出され並べられていく。そして砂時計でしっかり時間まで計って淹れられたお茶が、オレたちの前に出される。添え物としてお菓子まである始末だ。ここはお屋敷のテラスかな? と勘違いしてしまうほどだ。
「えっ!? あの蟻の巣を通ってやって来たんですか!?」
凄く驚かれた。
「入り口のギロチンの仕掛けにはよく気付きましたね。あのまま最初の部屋に入っていたら、閉じ込められて上から天井が落ちてきて終わりでしたよ」
終わりだったらしい。
「ふふふ、そんなに頭が良いのに音感が無いんですね」
余計なお世話である。
「なるほど、来た理由は理解できました。ではこのままお帰りになられるのですね」
不死鳥さんは俯き、なんだか寂しそうだ。
「不死鳥さんは、どうしてこんなところにいるんですか?」
思わずそう尋ねていた。
「囚われているんです。籠の鳥というやつですね」
そう言って不死鳥さんはドレスの前を開いて見せてくれた。思わず目を反らしたが、気になってチラリと見てみると、胸元に魔核らしきものが埋め込まれている。
「な、なるほど。それは外せないんですよね?」
「私が、一定以上のダメージを受けると壊れるみたいなんですけど……」
ふむ。不死鳥さん的にも戦うことに意味があったのか。
「それって、どれくらいなんですか?」
「私の命、100個分です」
どえらい数だな。
「しかも一度戦闘に入ると、この魔核に精神を乗っ取られて、私は戦う化け物になってしまうのです」
さらに面倒臭いな。不死鳥の血肉が手に入らないのも納得だ。
普通なら、それを聞けば自分たちには無理だ、とすごすご帰っていきそうなものなのだが、うちのパーティーメンバーは、こういうお涙頂戴に弱いんだよなあ。今もなんとかしろって目で訴えてきてるし。はいはい、やればいいんでしょ。
「分かりました。その呪縛、オレたちが解きましょう!」
「え?」
と彼女が喜んだのも束の間だった。灰色だった髪とドレスは黒に変わり、背中から炎でできた翼が生える。
バサッ。
その翼の熱風で一気に部屋の端までオレたちは吹き飛ばされた。オレはオーロ王女を抱きかかえたまま階段まで進み、王女を避難させると、精神を魔に乗っ取られた不死鳥と対峙する。
「お前ら! ここからが本番だ! 派手にぶちかまそうぜ!」
オレの叫びに皆の鬨の声が天に響き渡る。
ガシャンッ。
ブルースがここまで温存していたガトリング銃を取り出し、
ダダダダダダダダダダダ……!!
無数の弾丸を不死鳥へとぶち当てていく。それによってボコボコと穴が開く不死鳥だったが、すぐに再生していってしまう。
「うるぁ!!」
アキラが気合い一閃、光子剣を袈裟懸けに不死鳥を斬り裂くが、それもすぐに回復してしまう。
対して不死鳥が歌い出したかと思うと、最上階の温度が一気に上がる。このままいくと最上階が燃え上がる。
オレは剣を不死鳥の口へ目掛けて撃ち出すが、余程高温なのだろう、口の前で剣がドロリと溶けてしまった。
何か策は? と思案していると、マーチの人形の氷結小太刀が一撃与えて、歌声が止まる。が、
バサッ!
不死鳥の翼のひと薙ぎによって、人形は真っ赤に燃え上がり、消し炭へと変えられてしまった。
「あああああああ!!」
ブチキレたマーチが氷結小太刀を拾い上げ、不死鳥に何度も何度も斬り掛かる。それをものともしないで翼が、マーチに襲い掛かろうというところで、ファラーシャ嬢とヤースープ公妃閣下のライトニングスピアーがその翼を貫いた。
その隙にブルースが不死鳥の近くからマーチを引き離し、マヤの大盾の影に隠す。
「ああああ!! くそ!! くそ!! くそ!!」
ジタバタするマーチを、ブルースが抑えている間に、オレがブルースのガトリング銃を構えて撃ち続けていると、不死鳥に変化が起こる。
ボォッ。
とドレスが燃え上がったかと思うと、不死鳥の全身を包み込み、完全に鳥の形態に変身したのだ。
巨鳥と化した不死鳥は空を舞い、オレたちの空中から炎を吐き掛けてくる。それをマヤの炎鬼の大盾が防いでいるが、端が溶け出していた。見れば盾を持つマヤの手から煙が上がっている。
「長期戦はヤバそうだな。ブックマン、何か良い作戦ない?」
「あるわけないでしょ! 不死鳥はもっと先に、百人くらいで戦うレイド戦のボスなんですよ!? 今の僕たちのレベルで、どう太刀打ちしろっていうんですか!?」
と頭を抱えている。
「ふむ。しょうがない。オレが死のう」
「また自爆技?」
とマヤに言われてしまったが、プレイヤーであるオレは死んでも復活できるのだから、適任はオレだろう。
「オレが死んでもまだ倒せてなかったら、そんときはよろしく」
「ハァー、分かったわよ」
マヤは渋々承諾してくれた。
「ファラーシャ嬢! 公妃閣下! 翼を狙ってください!」
オレに言われた通りに二人が両の翼を撃ち抜くと、不死鳥が落ちてくる。が落ちきる前に翼は再生した。だが高度が下がっただけで十分だ。
オレはそれに飛び乗ると、馬乗りになり斥力ブレードを不死鳥の翼に突き刺す。これで飛べまい。しっかし熱い! オレ、足から喉元まで燃えてるんですけど!
そのままオレと不死鳥は湖へと落ちていった。
ドボンッ。
という着水音と同時に、湖の水が一気に干上がっていく。そして湖の底に着く頃には全部の水が干上がり、オレと不死鳥さんは乾いた地面で大の字になっていた。
どうやら今回はゲームオーバーにならなかったようだ。体は全く動かないけど。
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