第121話 蟻

 ドンッ!


 噴き上がる水柱。いきなり湖に水柱が立ったので、そこを注視したら、水面に浮かぶ人影があり。


「誰かいる?」

「お母様!」


 はあ!? あそこ、塔とここの中間くらいだぞ? 船も見えないし、泳いであそこまで行ったのか!?


「おい! 何か襲われてないか!?」


 とはアキラ。マジか!? よくよく見れば、巨大魚が集団の周りを何匹もうろうろしており、お母様は火魔法でそれらと対抗している。


「と、とにかく助けるぞ!」


 オレはオーロ王女をマヤに預けると、水辺まで駆け寄り、ファラーシャ嬢と二人で援護射撃をする。それによって魚は離散。オレたちに気付いたお母様たちが、こちらに泳いでやってくる。これはホントに泳いであそこまで行ったと思わせる泳ぎっぷりに、タフだなぁ、と舌を巻いた。



「ファラーシャ! 何故ここにいるの!?」


 驚くヤースープ公妃閣下。説明するファラーシャ嬢。ヤースープ公妃閣下はファラーシャ嬢とは違って緑色の髪が、ファラーシャ嬢と同じようにドリル巻きになっている。湖を泳いでいて何故髪型が崩れないの? 天然モノなの?

 オレが不思議なモノを見る目で公妃閣下を見ていたからだろう、マヤに肘打ちを食らった。


「ぐふっ」

「どうかしたの?」


 公妃閣下の目がファラーシャ嬢からこちらに移る。


「いえ、何でもありません」

「あなたたちがファラーシャの冒険仲間ね」


 自らが冒険者風の装いをした公妃閣下は、腰に手を当ててこちらを見定めたあと、やおらオレの手を取ると、痛いほどギュッと握りしめ、


「娘をよろしく頼むわね!」


 と爛々とした目で詰め寄ってくる。顔近いッス。


「もう、お母様! リンとはそんなんじゃないって!」


 とファラーシャ嬢がたしなめてくれるが、こんな時、男はどんな対応したらいいのか分からないよな。いや、こんな経験初めてだけど。とりあえず、


「コンフサー公はオレたちが持ってたエリクサーで回復しましたから、外酷城に挑む必要はもうありませんよ」

「まあ! そうなの!? ありがとう!!」


 と更に手を強く握られた。痛い。


「よっし! これで心置き無く外酷城に挑戦できるわね!」


 は?


「いや、ですからコンフサー公は……」

「そんなの口実よ! 私、前々から外酷城に挑戦してみたかったの!」


 何だこの人? 対応に困ってファラーシャ嬢を見ると、首を横に振っている。ああ、もう止められないのね。ハァー、仕方ない。


「分かりました。その外酷城挑戦、オレたちにも手伝わせてください」

「まあ、ありがとう! 歓迎するわ!」


 と今度は力いっぱい抱き締められる。


「お母様! はしたないですよ!」


 とそれを引き剥がそうとするファラーシャ嬢も、一緒に公妃閣下に抱き締められてしまった。


「とりあえず、今日はもう休みません?」


 オレはもうぐったりなので、ヤースープ公妃お付きの神父さんに聖典に記帳させてもらい、さっさとログアウトさせてもらった。



 しっかり休んで体調を整え、マグ拳にログインすると、皆まだテントでぐっすりお休み中だった。

 そんなテントを出て、朝日に輝く湖の周囲を歩く。偵察を兼ねた散歩である。

 ヤースープ公妃閣下は、もしかしたら今日も外酷城まで泳いで行く、と言い出しかねないが、オレにはそんなの絶対無理である。なんとか他の方法を考えなければならない。

 と思案していると、ガサガサギチギチとどこからか何やら音が聴こえてくる。音のする方へ気配を忍ばせ近付くと、それは蟻の集団だった。

 ただの蟻じゃない。一匹一匹が大人と同じくらい大きい蟻の集団が、象を担いで運んでいた。

 うわあ、象より蟻が強い、なんて迷信をこの目で見ることになるとは。オレは象よりヤバい蟻に見付からないようにその場を退いた。しかし蟻か。



「蟻の巣に突入する?」


 何言ってるんだ? とマヤとアキラが首を傾げるが、恐怖に顔をひきつらせているのはこの国の精鋭たちや神父、そしてファラーシャ嬢だ。ヤースープ公妃閣下は面白そうとでも思っているのだろう、目が爛々としている。他のメンバーはよく分かっていないようだ。


「その蟻とは、ジャイアントアントのことでしょうか?」


 精鋭の一人が恐る恐るといった感じでオレに聞いてくる。それに頷いてみせるオレ。


「無理です!」

「何で? 面白そうじゃない!」


 すぐさま否定した精鋭に反論したのは公妃閣下だ。


「でもさすがね、あんな死地に自ら飛び込むなんて、正気の沙汰じゃないわ!」


 それは感心してるのか? 馬鹿にされてるのか?

 ただルベウスの皆さんの反応から、他の皆もオレがヤバいことを考えているとは勘付いてきたようだ。


「オレもこのままでは、待っているのは全滅だと思っています」

「ふむ? ではどうするというのかしら?」


 あくまで楽しそうな公妃閣下。この難局をどう乗り越えるのか、試されている感じがする。まあ、正面突破するだけだけど。そのためには、少なくとも象を殺す蟻と比肩する攻撃力が必要になる訳で。


「ブックマン」

「えっ?」


 完全に聞き役に徹していたブックマンは、いきなり自分の名前を呼ばれてびっくりしていた。


「あの、刃先が光るヤツ、教えてくれない?」

「えっ?」


 まあ、カラクリは何となく想像ついてるけどね。

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