第120話 預言衆

「あり得ないあり得ないあり得ないあり得ない……」

「何をぶつくさ言ってるんだ?」


 所々焼け焦げた森を、東へと早足で進んでいるオレたち。そのオレの横でブックマンが念仏のように何やら言っている。


「あり得ないんですよ! 何ですかこの展開は!? このイベントが発生するのはもっと先のはずなんです! しかもこれは裏クエストだ! 本来は公妃閣下がお亡くなりになられてから発生するはずなんです!」


 ブックマンはそこまで口にすると、自身の口が過ぎたことにハッとして、片手で口を押さえる。だが時すでに遅しだ。皆から白い目で見られている。甘いなあ。経験の少なさが態度に出てるよ。まだ若い社員なのかも知れないな。


「あなた、何者かと思っていたけれど、預言衆だったのね?」

「預言衆?」


 オレの後ろにいるオーロ王女の言葉に首を傾げる。


「預言者の集団よ。各地に突然現れては預言を残して消えるの。その預言がよく当たるから、各国の上層部も無視できないのよ。我が国だと、冒険者プレイヤーへの西側閉鎖や、国外への渡航禁止とか。冒険者への規制が多いのが特徴ね」


 ああ、預言衆がマグ拳ファイターの運営ならば、そうならざる得ないよね。


「と言うか、何故オーロ王女まで来てるんですか?」

「こういうとあれだけど、今私ワクワクしているわ!」


 まだ幼いオーロ王女に、一人帰ってくださいと告げるのもはばかられる。このまま連れていくしかないか。何かばっちり旅装に着替えてるし。


「ちなみに王女様、戦う術は?」

「全く持ち合わせていないわ!」


 完全なるお荷物だった。話を切り替えよう。

 ファラーシャ嬢の話によると、ファラーシャ嬢のお母様、ヤースープ公妃閣下は、数名の精鋭と教会の神父を連れて東の果てにある外酷城に向かったそうだ。無茶をする。


「ファラーシャ嬢、公妃閣下っていつもこんな無茶をする人なの?」


 オレの後ろでオーロ王女と並んで歩くファラーシャ嬢に話を振る。


「さすがにここまでの無茶をしたのは初めてですけど、お母様は熱いお方です。城下に野盗が現れ、民が困っていると聞き付けては、一人で乗り込んで退治してしますくらいに」


 さすがはファラーシャ嬢のお母様だな。ファラーシャ嬢がこんな風に育つ訳だ。


「あと、火魔法の名手で、私の先生でもあります」


 ああ、所々森が焦げてるのは、精鋭たちがやったのではなく、お母様がなさったのね。


「じゃあとりあえず」


 とオレは屈んでオーロ王女にオレの背に乗るように伝える。


「なんですの? まだ歩けますわ」

「ここからスピードを上げます。できるだけ早く公妃閣下と会いたいので」


 そう言われ、王女様が渋々オレにおぶさると、オレたちは焼け焦げた森を走り出した。



 猿の集団がオレたちと並走するように木々の枝を跳躍している。


「来るぞ!」


 叫ぶアキラに合わせたかのように、猿たちが一斉に襲い掛かってきた。

 それを一番にマーチが切り裂き、アキラとファラーシャ嬢がそれに続く。ブックマンも中々の戦いっぷりだ。

 アキラ曰く、ハルバードという武器は強力だが扱いの難しい武器らしいが、ブックマンはそれを見事に使いこなしている。

 自身に襲い掛かってくる猿たちを、槍で突き、斧で薙ぎ払う。一対多の戦いに馴れているのか、ブックマンは長物を軽々振るい、猿たちを魔核と素体に分解していく。

 戦闘は五分ほどで終わり、オレやマヤ、ブルースの王女様護衛組が戦闘に加わることなく、30はいた猿たちは全て魔核と素体にされていた。


「やるわね!」


 オレの背に乗るオーロ王女は、普段戦いの場に赴くことなどない為だろう、凄く興奮していた。あまり背で暴れないで欲しい。


「そうでもありません、よ!」


 とオレがナイフを抜き森へと撃つと、今まさにオレたちに襲い掛かろうとしていた虎の喉に命中し貫く。こうして虎は出鼻を挫かれあっという間に分解されてしまった。


「やるわね!」


 どうも。



 象である。長い鼻に巨大な二本の牙、何よりその巨体が目を引く一頭の象。に睨まれている。


「パオー!!」


 耳をつんざくほどの奇声を上げると、象はオレたちに突進してきた。


「なんの!!」


 が、それを真正面から大盾で受け止めるマヤ。さすがです!

 すかさずアキラとマーチが側面に回り込み一撃与えるが、さすがに象の皮膚は頑丈である。浅い傷を与えたに過ぎなかった。


「パオー!!」


 そして傷付けられたことでさらに暴れ狂う象。何度も突進を繰り返され、さすがのマヤも押し返されている。

 これはオレの斥力ブレードの出番か、とオーロ王女を降ろしたところで、


 ザシュッ!


 とブックマンの一撃が象の頑丈な皮膚を貫く。見ればブックマンのハルバードの刃が、うっすら光っている。ふ~む、どういう原理だ?


「くっ!」


 とそんなことを考えている場合じゃなかった。象に一撃与えたことで、象の標的がマヤからブックマンに替わってしまった。そのことで攻めあぐねるブックマン。オレはオーロ王女をブルースに託すと、グラディオマギアを取り出し、斥力ブレードで象を一刀両断したのだった。



「着いて、しまったな」

「ええ。着いて、しまったわね」


 昼夜を問わず丸一日走り続け戦い続け、気付けば眼前には湖が広がり、その中央に天を突くような高い塔がそびえ立っている。

 いや、まさか道中で公妃閣下と出会わないとは思わないじゃない。すでにオレらボロボロなんですけど? 大体、湖の真ん中に浮かぶ塔なんて、どうやって行けばいいんだよ? と思案しているオレたちをよそに、オーロ王女はオレの背中でぐっすりお寝んねしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る