第119話 人外魔境の外酷城

「お父様!」


 ファラーシャ嬢が寝室へ駆け込むと、娘が帰って来たというのに、同じピンクの髪をオールバックにしたファラーシャ嬢の父は、ムスッとしている。


「何をしておるか、馬鹿娘が!」


 開口一番、帰って来た娘に放った父の言葉はお叱りだった。


「でも、お父様が倒れたって聞いて、私居ても立ってもいられなくて……」

「でも、じゃない。何だあれは?」


 窓の外を指差すファラーシャの父。そこに見えるのは、トレシーとは趣を異にする、熱帯を思わせる木々に囲われた美しい湖、に浮かぶ軍艦だ。どうやらルベウスに海はないようだ。


「全く、城下が大わらわではないか」


 確かに、城下の住民たちが皆湖まで出てきて、初めて見る軍艦に奇異驚嘆の視線を向けている。


「……ごめんなさい」


 しゅんとして謝るしかないファラーシャ嬢。


「でもよかったです。コンフサー公がお元気のようで」


 とはオーロ王女。…………オーロ王女!?


「何でいるの!?」


 思わず声を上げていた。


「何故、と言われても、あなたたちに付いていったら、あれよあれよという間に、気付いたらルベウスにいたのよ」


 ああ、あのドタバタ騒ぎでオーロ王女のことなんて吹っ飛んでたなあ。って言うか、オレたちが来た意味もなくね? ファラーシャ嬢さえ送り届けられれば良かったんじゃ?


「これはオーロ王女殿下。遠いところへわざわざありがとうございます」


 恭しく礼を述べるコンフサー公。すぐにベッドから降りようとするのを、オーロ王女が止める。


「良いのです。コンフサー公の元気な姿が見れただけで」


 と礼を返すオーロ王女。


「大きくなられましたな。うちの馬鹿娘とは大違いだ」


 いえ、この人つい最近まで死罪死罪って喚いてました。


「これファラーシャ! 王女殿下をいつまでこのような場所にいさせるつもりだ! すぐに応接室へお連れしなさい」


 コンフサー公にそう言われ、ファラーシャ嬢はオーロ王女と寝室を後にした。バタンと閉められる寝室の扉。


「で、容態はどのような感じですか?」


 まるで当たり前のように寝室に残ったのは男子組、オレ、アキラ、ブルースにブックマンだ。マヤとマーチはファラーシャ嬢たちに付いていった。


「君たちは?」

「しがない冒険者です。お嬢さんとは旅する中で親しくしていただいております」


 オレがそう言うと、コンフサー公は顎に手を当てオレを見定める。


「君がリンくんだね。ファラーシャのパスで聞いているよ」


 オレはコンフサー公と目を合わせたまま、肯定の頷きを返す。


「君たちならば良いだろう。確かに、私の命はもう長くない」

「病気、ですか?」

「ああ、貴族病と呼ばれるものでね。他人より早く筋肉が衰え、衰弱し、死に至るという不治の難病だよ」


 貴族病、ね。症状を聞いた感じだと、ALSとか筋萎縮症みたいだけど、「貴族」と付いてるってことは、貴族に多いんだろう。もしかしたら貴族同士の結婚が進みすぎて、近親婚に近くなった果ての遺伝病かも知れない。


「治すには、人外魔境の果てにある、外酷城(げこくじょうを棲み家とする不死鳥の血肉か、エリクサーでなければ治らないのだ」


…………。


「エリクサーならありますけど」

「…………」

「…………」

「な!? 何ということだ! それは本当か!?」


 オレはコクンと頷き素直にエリクサーの入った小瓶をみせる。それを見てショックで額を抑えるコンフサー公。


「本当に、何ということだ……。では私は、生き長らえることができるのか?」

「はい」


 ここは強く肯定しておく。


「ふ、ふははははは、は!? いかん! ここで喜んでいる場合ではない!」


 と感情が上下に激しいコンフサー公は、真剣な顔でオレに向き直る。


 バタンッ!


 と同時に寝室の扉が強く開け放たれた。


「リン! 大変よ! お母様がお父様の病気を治すために、外酷城へと出立なされたって!」


 ファラーシャ嬢が大慌てで寝室に入ってきて、コンフサー公の事情は理解した。

 次の目的地は、人外魔境の外酷城か。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る