第114話 巻き貝

「はあ、はあ、はあ……」


 砂漠を進む一団はオレを置いてきぼりにして先に進んで行く。はあ、オレ、サブルムに来てからゼイゼイ喘いでばかりだな。今更ながら相性悪い気がしてきた。


「おーーい、待ってくれーー!」


 オレが声を掛けると、一団の後ろを歩いていたマヤたちが振り返ってくれた。がその足を止めてはくれなかった。



「ホントにおっそいわね。遅すぎて見失うかと思ったわよ!」


 目的地に着いて早々マヤにお説教された。


「仕方ないだろ。サードとの戦いでオレの装備全部お釈迦になっちゃったんだから」


 オレは今、街人の服に木靴、その上からフード付きのマントを羽織っている。


「アウルムに戻ったら装備新調しないとね」


 オレほどではないにしろ、今回の戦いで皆大なり小なり装備をダメにしている。ここらで装備を一新して、新たな冒険に備えねばならないだろう。


「んで、ここがラマド王子が落っことされたって遺跡か?」


 オレの言葉に頷いたのは、この一団を先頭に立って引き連れていたラマド王子その人だ。

 オレたちは半分砂に埋まった遺跡、さらにそこにポッカリ空いた大穴の近くで休憩中である。


「ああ、この下に黄金郷はある」


 腰に手を当て、そう告げるラマド王子。黄金郷ねえ。いったいどれほどのものか、見せてもらおうか。



「凄い! 眩しい!」


 オレの語彙力の無さよ。だが全てが黄金で塗り固められた地下遺跡なんて見せられたら、誰だって同じような反応になると思う。

 ラマド王子曰く、先々史文明の遺跡らしいが、ちょっとした村くらいの規模がある。


「で、オレらへの報酬って、まさかこの遺跡丸ごとくれる訳じゃないですよね」

「さすがにそれをやるとハララに叱られるな」


 ですよねえ。ハララ侯爵は今回の件で王族派が皆悪魔となって消えてしまったので、この国の宰相となり、国ごと盛り立てていくことになっている。まあ、内戦中にあれだけ領地を栄えさせた傑物だ。国の運営を任せても問題ないだろう。近隣諸国からしたら、しちめんどくさい人が宰相になったことになるが。


「こちらに来い」


 ラマド王子にそう言われて着いてきた場所には、中身のぎっしり詰まった黄金の宝箱と、その後ろに控えるのは、見事な巻き貝が彫刻された黄金の両開きの扉である。扉の中央にはダイヤルらしきものが付いている。


「この黄金と後ろの扉の先の中身、好きな方を選べ」


 ふむ。そう来たか。黄金の宝箱は大人が一抱えするぐらいの大きさがある。これだけで5億、10億だと言われても驚かない。今回の報酬として十分だろう。

 対して扉の先の中身。何か分からないところが難しい。もしかしたらこの宝箱が何箱も納められているかも知れないし、逆に何もないただの部屋の可能性もある。


「あの部屋が何なのかは教えてもらえないんですよね?」

「すまんが我も知らぬのだ。この扉を開けられなかったゆえな」


 なるほど。王子としては開けられなかった扉の先が見たかった訳か。ならその期待に応えましょう。


「なら、扉の先のものをいただきます」


 一団からは驚きの声が漏れるが、オレのパーティーは当然、といった顔をしている。中身がハズレかも知れないってのに、気にしてないんだろうなあ。それより未知へのわくわく感が勝っている感じかな。


「ブルース」


 オレに言われるまでもなく、ブルースは扉のダイヤルの前に立っていた。


「ダイヤルはいくつある?」

「10だ」

「オーケー。1、1、2、3、5、8、13、21、34、55だ」


 ブルースがダイヤルをその通りに会わせると、ガチッと扉から音がして、黄金の扉は自動で開いていった。そして中からこぼれる光に目が眩む。

 金銀財宝が入った黄金の宝箱が五箱に、見事な意匠の施された装備類がズラリと並べられている。どうやらここは武器庫兼貴重品庫であったようだ。


「やられたな。ハララに叱られそうだ」


 オレの後ろでラマド王子が感嘆のため息を吐いている。


「何故そんなに簡単に分かったのだ?」


 不思議そうに首を捻っているラマド王子に、オレは説明する。


「オレからすれば、答えが書いてあったようなものですから」

「答えが?」


 扉を見るラマド王子。


「巻き貝か」

「ええ。この砂漠で巻き貝は場違いですから。巻き貝に秘密があると思ったんです。それで巻き貝がフィボナッチ数列という黄金比に基づいて大きくなっていくのを思い出しまして」

「それが先ほどの数字か」

「はい」


 頷くオレにラマド王子がもう一度とため息を漏らす。


「ちょっと何してんのよリン! あなたもこっち来なさいって!」


 黄金の扉の向こうから、マヤたちが呼んでいる。


「オレの分残しておけよ!」


 などと冗談言いながら、オレは皆の元へ走っていった。

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