第113話 継続

「はあ……、はあ……、はあ……、うう、吐きそう……」


 オレが議会場に着いたときには、すでに戦いは始まっていた。

 黒と青が混ざったように見えたものは、黒と青の無数の手だった。


「……何あれ?」


 疲れと理解不能の状況にオレが呆けていると、


「リン! やっと来た!」


 マヤがオレに気付き、マーチ、ブルースを連れてオレの元までやってこようとする。しかし手たちはそれを許すまいと突進を仕掛けてくる。それに応戦する三人。ボーっしていたオレの元にも手たちが襲い掛かってきたので、オレはボロボロの身体に鞭打ち仲間の元へダッシュする。

 オレがマヤたちの元へたどり着いたところで、マヤが炎鬼の大盾を展開して球状にし、オレたちパーティーを囲った。


「ひどい格好ね」


 オレに比べればまだ余裕がありそうなマヤからポーションを渡され、オレはそれを一気に飲み下した。


「あいつの倒し方分かる?」


 いきなりだな。飲んですぐにマヤが聞いてくる。


「っていうか何なのアレ?」

「ラマド王子曰く、悪魔サードの真なる姿だそうだ」


 とはブルース。はあ、そうですか。


「そのラマド王子や教会派の皆は?」

「リンみたいにボロボロになってたけど、何とか生きてたわ。リンが来るまでにラハドがグリフォン使って、安全な場所に輸送してくれたの」


 なるほど。


「ラマド王子はサードの倒し方とか言ってなかったのか?」

「だからリンに聞いてるんでしょ!?」


 マヤが大声を上げる。そんなん知らんがな。


「ラマド王子としても、イペロコス・エクソシスムで悪魔サードごと葬れると思っていたらしい」


 とブルース。了解。これが不測の事態であることは理解できた。だからといって悪魔の倒し方なんてすぐに思い付く訳ない。

 オレがうんうんと唸っている間にも、ドカドカと悪魔サードの手の攻撃は継続中であり、段々とマヤの炎鬼の大盾でできた空間が萎んできている。

 どうすれば倒せる? 火か? 水か? そんな単純なことじゃない。いちいち倒してられないから、何か一度に倒す方法が求められてるんだ。どうすればいい? 何が効く? ……効く?


「そうだ。エリクサーだ」

「エリクサー? 効くの?」


 マーチが首を傾げる。


「記憶を戻した兵隊さんが、王都の兵隊にエリクサーを飲ませたら苦しみ出したって言ってたろ? あの時点で彼らはすでに悪魔に換えられていた。ってことは悪魔にエリクサーは効果があるってことだ」


 オレの説明に三人が納得して頷いてくれる。


「悪魔にエリクサーが有効だろうことは分かった。だがどうやってあの大量の手にエリクサーを振り掛けるんだ?」

「ふっオレを誰だと思ってるんだい?」



「ヌオオオオオオッ!!」


 吼えるマヤ。それはそれだろう、今、マヤの大盾の周りには悪魔サードの手が大量にへばり付き、離れようともがいているのだ。だが離しはしない。オレはマヤの大盾にパスを通して大盾に引力を与える。これでサードの手はオレの引力圏から逃れられない。ディメンション系は基礎魔法で一番強力だからな。普段は使わないが、まさかこんなところで役に立つとは。


「できたぞ!」


 ブルースとマーチが用意してくれていたのは、樽十個に入れた大量の水。そこにエリクサー全てをぶち込んでやった。


「いいか。これは自爆技だ。オレたちに逃げ道は無い。死んでも恨むなよ」


 三人は笑って頷いてくれた。


 ありがとう。


 オレは大盾から樽に引力圏を移す。


「マヤ!」

「大盾の展開を解くわ!」


 大盾が解かれると、盾の外にいた無数の手が、こちらに向かってくる。


 ドバアアアアアアアッ!!


 噴き上がるエリクサー水に苦しむ無数の手を見ながら、オレの視界は白い空間へと移動し、眼前には「gameover」の文字が浮かんだ。


 すぐに教会からリスタートしたオレの目に飛び込んできたのは、ラマド王子たちだった。どうやら教会に逃げ込んでいたらしい。皆傷付いていたが、その顔には笑顔が溢れ、互いに喜びあっていた。

 気付かれないうちにオレは教会を出ると、議会場へと向かった。だがその足取りは重かった。体力的な疲れというより、気疲れのせいだ。オレの自爆技に仲間を巻き込んでしまった自責から、胸がジクジク痛んだ。

 マヤはまだ教会で復活できるから良いが、ブルースとマーチは、もしかしたらあれが今生の別れだったかも知れない。そう思うと足が重かった。


 やっと着いた議会場は更地で、何も残っていなかった。

 ガックリと足元から崩れ落ちるオレを、誰かの手が支える。

 振り返ると、それはブルースの手だった。


「全く、疲れてんだから面倒かけさせるな」

「一人あの場から消えちゃうから焦ったわよ」


 マヤの言葉にマーチが頷く。

 三人は生き残っていた。三人ともくたくたのボロボロだったが、笑顔をオレに向けてくれる。


「皆、ありがとう」


 オレは泣きながら笑っていた。

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