第108話 香水

「へぇ、香水なんて売ってるんだ」


 ハララ侯爵との話し合いを終え、オレたちは夜市をブラついていた。目に止まったのは香水瓶である。それもスプレー式。


「まさか買うつもり!?」

「あげる人なんていないでしょ!?」


 女子二人がスゴい嫌そうな顔をしている。


「あげなきゃ、買っちゃいけないのかよ?」

「まさか使うつもり!?」

「そうだけど?」


 なんか、ドン引きの顔している。ブルースまで!?


「そんなにおかしいか?」

「リンってオカマだったの?」


 とはマーチ。ああ、こっちの世界ではそういう認識なのね。


「リンがそんなチャラかったなんて……」


 とはマヤ。いや、両手を地面に付くほど項垂れるなよ!


「はい、お兄さん。10万ビットね」


 とは店員さん。


「たっか!? いや、さすがに高過ぎでしょ!? 1万ぐらいに負けてくれない?」

「いや1万って!? 1万じゃこっちも生活してけねえよ。「1万」負けるのと「1万に」負けるのじゃ、天と地ほど差があるわ。負けて95000だな」

「じゃ、2万で」

「だーかーらー」

「じゃあ大負けに負けて5000ってのは?」

「なんでさらに下がるんだよ!?」



 宿屋に着いたところで、女子二人がまだドン引きしている。


「男にも、香水を使いたくなる時があるのさ。例えばこんな夜とか」

「いや、そっちじゃなく! 10万の香水を3万で買うとか、どんだけよ!?」

「正確には3万と122ビットだ」

「細かい」

「くっ、あと122ビット値切りたかったぜ」

「店員さん泣いてたし。絶対原価割れ起こしてるわよ」

「まあ、でもこんだけ値切れたからな。今日は良い夢見れそうだぜ」

「でしょうね」


 やはり女子二人がドン引きしている。解せぬ。



 足音を立てないように、廊下を早足で歩く気配がする。その気配が部屋の前で止まり、


 ドカッ!


 とドアが蹴破られた。部屋に入ってきたのは国軍の兵隊たちだ。すぐに銃を構えてベッドを撃つ。が、そこには誰もいないのだよ。

 いち早く気配を察知していたオレは、ドアのある壁にへばり付き、兵隊たちの攻撃をやり過ごすと、


「ご苦労さん」


 当て身で五人ほどいた兵隊たちを気絶させる。


「そっちはどうだった」


 オレの声掛けで部屋に入ってきたのはマヤにマーチ、ブルースだけに留まらず、ラハドやシンデレラさん、教会派だ。皆腕に気絶させられた兵隊さんを捕まえている。


「こっちも同様だ。やはりハララ侯爵は王族派の間者だったんだ!」


 熱いねえ、ラハドは。


「オレはそれも違うと思うけどな」

「どういうことだ?」

「多分、ハララ侯爵は王族派が勝とうが、教会派が勝とうが、どっちでも良いんだよ。大事なのはこの領なんだろう。この領を栄えさせえくれるなら、王族でも教会でも構わないのさ」


 オレは気絶した兵隊さんたちを壁に並べていきながら応える。


「だったら今夜のこれはなんだって言うんだ!」

「この程度の苦難も乗り越えられない若輩じゃ、交渉の場には立たせられない、ってメッセージかなぁ」


 チラリとラハドたちを見れば、苦々しそうな顔をしている。まあ、試されているようで、良い気はしないよな。


「あの、先ほどから何をなさろうとしているのですか? 兵隊たちは殺すな、と言われたり、壁際に並べたり」


 これはシンデレラさん。まあ、不思議だよねえ。さらに不思議なことに、オレの手には香水瓶があったりする。


「ほら、シンデレラさんと会ったときに、兵隊さんたちが洗脳されてるかも、って話になったじゃない」

「はい」

「じゃ、その洗脳を解いたらどうなるかな? って思ってね」

「解けるのですか!?」

「いやぁ、どうかなあ?」


 言いながらオレは香水瓶の中身をシュッと兵隊たちに振りかけていった。


「香水で洗脳が解けるの」


 マヤが怪訝そうな顔で問い掛けてくる。


「まさか。オレが欲しかったのは香水じゃなくて瓶の方。中身は別物だよ」



「う? う~ん……」


 兵隊の一人が目を覚ました。


「こ、ここは?」

「宿屋です」


 椅子に座るオレと周りを取り囲む教会派を見て、まさに夢から覚めたようにハッとする兵隊さん。


「す、すまん!! 私はなんということを!」


 ほう、いままでの兵隊たちとは反応が明らかに違うな。これは、洗脳の線、当たりだったか?


「自分が何をやっていたか、記憶にあるんですね」

「ああ、まるで夢を見ていたみたいだが、記憶はある」


 ふむふむ、なるほど。


「何故、あのような行動を取っていたのか、教えてもらえますか?」

「…………悪魔だ」


 は?


「王宮で我々は悪魔を見た」


 また面倒臭いことになってきたなあ。

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