第109話 不穏
翌日、ハララ侯爵の宮殿で昨夜の話をした。証人として兵隊たちも一緒だ。
「悪魔、ねえ」
足を組ながらハララ侯爵は兵隊たちを上から下に値踏みしている。
「本当なんです。王宮の訓練場にその男はいきなり降り立ちました。山羊のような角を生やし、蝙蝠のような翼を持った男。奴の目が光った瞬間から、我々は奴の術中に堕ちていたのです」
ハララ侯爵は聞いてはいる、が聞き流している、といった感じだ。もしかしたら知っていたのかも知れない。
「分かったわ。注意はしておく。それより、王との話し合いの日取りが決まったわ。三日後、王都の議会場よ」
ハララ侯爵はラハドと向き合う。その目は何かを試しているようにも見える。ラハドは紅潮した顔で一つ頷くと、すぐに立ち上がり、応接室を出ていってしまった。その後に続く教会派の皆。
やれやれ、といった感じでオレたちが後をついていこうとすると、ハララ侯爵に声掛けられた。
「ラハドを頼むわね」
一瞬だけ覗けたその顔は、領主のそれではなく、友人を心配する顔だった。
「ま、できるだけのことはしますよ」
侯爵領から王都までは一日、着いた王都は静かなものだった。規模は侯爵領と双肩を成すが、通りに人がいない。建物から人の気配はするのだが、皆関わり合いになりたくないのだろう。一歩どころか十歩引いて見ている感じだ。
「あまり歓迎されてないみたいだが?」
「オレたちが勝っていれば変わってた」
まあ、話し合いになった段階で完勝はなくなったからな。
会議場が見下ろせる、街外れにある高い建物が教会派のアジトの一つになっていた。
「帰ったか、ラハド」
禿頭で眼帯を付けた傷だらけの壮年の男を筆頭に、歴戦の戦士たちが勢揃いしていた。
「すまない親父。勝手した」
「いや、よくやってくれた。オレたちも王とは一度話し合わねばならない、と思っていたところだ」
禿頭の男の言葉にラハドがホッとしている。まあ、この歴戦の戦士たちの圧はスゴいよね。
「それより、国軍が洗脳されて、ってのは本当なのか?」
戦士の一人が声を上げる。
「ああ、本当だ」
ラハドが戦士たちに説明していく。
「ううぬ、参ったな。自らの意志で国軍にいるのかと思っていたが、まさか洗脳だったとは。これではやつらに手が出せぬ」
「ああ、それなら大丈夫です」
全員の目がオレに向く。
「すでに洗脳を解呪できる薬を、オレたちが接触した兵隊たちに持たせて、今、その兵隊たちが国軍に薬を飲ませて回っているはずだ」
いきなり口出してきて誰だこいつって顔だ。
「傭兵のリンだ。有能だよ」
ラハドの言葉に納得する戦士たち。
「その薬ってのは何なんだ?」
「エリクサーです」
ラハドも含めて場の全員に驚かれた。
「何でそんなもの持ってるんだ!?」
「魔女から買ったんだよ。10億で」
10億ビットでまた驚かれた。
「そのエリクサーは国軍の軍人全員分あるのか?」
とはラハドの親父さん。
「兵隊たちに持たせた分、ということなら、この王都を守護している兵隊たち分だけです」
「10億払う。できればサブルムの国軍、全員分を分けてもらえないだろうか?」
親父さんにそう言われ、オレがマヤたち三人を見遣ると、三人とも首を縦に振った。まあ、三人はそうだろうね。ついでに目端でシンデレラさんが何度も頷いている。
「オーケー。10億でオレたちが持ってる。エリクサーを売ろう」
戦士たち全員がガッツポーズを取る。そりゃそうか、これで人殺しをしなくてよくなるんだから。と思っていたら、
「大変だ! 国軍に薬を回してた兵隊が、ボロボロで担ぎ込まれて来た!」
オレたちは顔を見合せ兵隊さんの元へ急ぐ。
「す、すまない」
それが兵隊さんの最期の言葉だった。
なんとか兵隊さんから話を聞き出した教会派の人の話では、エリクサーを飲ませると相手の兵隊は呻き声を上げ、凶暴化して襲ってきたのだそうだ。
当然ながらオレに不信の目が向けられる。
「10億の話は無しですよね」
「当然だろ! 本当にエリクサーを飲ませたのか!?」
襟首掴んで怒鳴ってくるラハドの手を払い除ける。
「オレが、この状況に怒ってないと思ってるのか」
オレが睨むと、ラハドは二歩三歩と後退った。
しかし困ったな。国軍を味方に付けて、王との話し合いが上手くいかなかった時に、クーデターを興してもらおうと画策していたのだが、その案がダメになった。
「親父さん。できるだけ戦える人を用意しといてください」
「ああ」
中々、不穏な空気が拭えないな。
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