第107話 侯爵領

「グルアア!」


 向こうの空でグリフォンが旋回している。


「あっちか!」


 ラハドを筆頭に、オレたちはグリフォンが旋回している下へと向かう。そこにあったのは地下へと続く階段だった。


「なんだこりゃ?」


 首を傾げるオレたちに、ラハドが説明してくれる。


「このサブルムの砂漠の下には、至るところに昔の人たちが暮らしていた遺跡が砂に埋もれて残ってるんだ。これはその遺跡への入口さ。まぁ、昔の物見塔の天辺らしいけどな」


 へぇ。物見塔から下に降りていくと、中はひんやりしており、意外と広かった。


「オレたちはこうやって遺跡を転々としながら軍と戦ってるんだ」

「それってさ、どちらかが全滅しないと終わらないんじゃない?」


 オレがボソッと言った一言に、場がシーンとなる。教会派も思ってはいたが考えないようにしていたようだ。


「じゃあ、他にどうしろっていうんだよ!」


 ラハドの指摘ももっともだ。


「こういうのは無理矢理にでもトップ同士が顔を突き合わせて、話し合いで落とし処を決めるしかないだろうな」

「できればやっているさ!」


 だよねえ。


「こっちのトップって誰なの?」

「オレの親父だ。市民議会の議長をやってる」


 とはラハド。王侯貴族が頭おさえてる所の議会で議長やってても、上意下達の連絡役みたいなもんだな。


「貴族側に引き込めそうなやつはいないのか?」

「……いる」


 あまり仲良さそうじゃないな。


「ハララ侯爵が、教会やオレたちの話を聞いてはくれる」


 侯爵か。かなり王様に近しい人物が出てきたな。


「ハァー、ラマド王子がいてくれれば」


 と教会派の誰かが漏らす。


「そのラマド王子ってのは?」

「これからの時代はサブルムも市民や教会の意見を採り入れてより良い暮らしを、ってオレたちに力を貸してくれてたサブルムの第一王子だ。二年前、ライフワークの遺跡の調査で野盗に襲われて、帰らぬ人に」


 皆が沈痛な面持ちになっている。


「それからだよ。王様が教会否定派になったのは。噂じゃ第二王子のインフィジャールが、あることないこと王様に吹き込んだらしい」


 困ったねえ。なんか色々事情が複雑そうだ。


「とりあえず、そのハララ侯爵と会って、王様と話し合いの場を設けてもらわないと、このままじゃ勝っても負けても、誰もいない国になっちまうぞ?」


 オレが教会派に語り掛けても、皆黙ってしまう。


「皆さんがお亡くなりになられたら、私、とても辛いです」


 とはシンデレラさん。


「よし皆! まずはハララ侯爵と前打ち合わせだ!」


 ラハドよ、お前それでいいのか?



 ハララ侯爵はサブルムの南を治める偉い人、ということで、オレたちは目的地をサブルム王都から南のハララ侯爵領に変え、進路を南西へ切り替え進んでいった。



 ハララ侯爵領は、とても栄えていた。高い塔がいくつも建ち並び、夜なお明るい街。これが内戦中の国なのだろうか? と疑ってしまうほどだ。

 そして一際大きな宮殿に、オレたち、ラハドと教会派5名、シンデレラさんが通された。それだけ入ってもなおスペースに余裕があるほど、通された応接室は広かった。


「待たせたかしら?」


 入ってきたのは、赤髪の妙齢の女性だった。脇に屈強な男を二人連れている。


(あれがハララ侯爵か?)

(そうだ)


 声からラハドが緊張しているのが伝わってくる。確かに、ひとすじ縄ではいかなそうである。


「あら? 今日は新しいお客様もいるのね」

「傭兵だ。腕は確かだ」


 オレたちはいつから傭兵になったのか。まぁ、ここはでしゃばるところじゃないか。


「そう」


 ハララ侯爵はオレたちを値踏みするように上から下まで見詰めると、もう興味を失くしたのか、オレたちの対面に座り、ラハドと向かい合う。


「今日はどんな御用かしら?」

「王と渡りを付けて欲しい」


 余裕そうだったハララ侯爵の顔が真面目なものに変わる。


「本気なのね」

「ああ」


 ニヤリとハララ侯爵の口角が上がった。


「良かったわあ、このまま戦争が続いても悲劇しか残さないもの。こんなにめでたいことはないわ。今から祝杯を上げようかしら」

「まだそんな時期じゃないだろ。話し合いの成否によっては、全面戦争だ!」


 ラハドの気迫に、興を削がれたような顔になるハララ侯爵。


「そうね。ではすぐにでも私の方から王にこの話を持っていくわ。そちらも、お父様とよく話し合って、当日誰を話し合いの場に出すのか、決めておいてちょうだい」


 こうして話し合いの場が設けられることになったが、オレには不穏な空気がまとわりついているように感じられた。

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