第97話 西行

「まずは西だな」

「西か」

「西かぁ~」


 灯台を出て地図を広げるブルース。他三人でそれを覗き込む。


「あれ? ✕印が三ヶ所あるのは何でなの?」


 マヤが首を傾げる。


「ああ、そこは丹砂だな。書いてある」

「丹砂?」


 オレの答えにまた首を傾げるマヤ。


「水銀と硫黄の化合物の鉱物だよ。赤いから朱砂とも、産地から辰砂とも呼ばれてる」

「え? じゃあそれを採ってくればオーケーなんじゃないの?」


 まあ、そうなんだろうけど、


「追記で次点って書いてあるからなあ。丹砂が必要なんじゃなくて、水銀と硫黄が必要なんだろうな」

「なるほど」


 納得のマヤ。


「納得したのなら移動するぞ。馬車はアインスタッドだ。そこまで歩きになるからな」

「「「はーい」」」


 ブルースの号令の元、オレたちは西へと歩き出した。



「これ、借りてた代金です」

「お! ちゃんと返しに来るとは感心だな」


 とはハッサンさん。人を借りた金返さないみたいに言わないで欲しい。まあ、アインスタッドに来るまで忘れてたけど。そういやオレらって海賊貴族倒すとき、ここの冒険者ギルドにお金用立てもらってたんだよねえ。


「馬車は裏の厩舎にありますから」


 とはユキさん。


「で、今は何か依頼承けてるのか」

「ええ、これから西に薬の材料集めに」

「西かあ」


 腕組みをするハッサンさん。


「相当ヤバいんですか?」


 グラキエースのことを思い出すと、アウルムの西の被害も大きそうだ。


「いや、一体は倒されたんだ」

「そうなんですか!?」


 早いな、と言おうとしたが、オレたちの方が早く倒してた。


「ああ、無双前線にアキラが戻ってすぐにな」

「早いなあいつ。帰ってすぐじゃないか」

「それでもう一体のドラゴンもどこかに隠れてしまってな。今は西は落ち着いてるんだが……」

「が?」


 オレは先を促す。


「西の火山が国境で、その先は広大な砂漠になっているんだが、そこから難民が流れてきているらしい」

「難民、ですか?」


 まさかゲームでそんな話を聞くとは思わなかった。


「西の砂漠のサブルム国で、国を二分する内戦が起こっているらしい。その争いを避けて難民が火山周辺でキャンプ暮らしをしているそうだ」


 いやはや、どの世界、どの国でも戦争って無くならないのね。


「で、リンたちはどこへ行くんだ?」

「…………その火山です」


 ハッサンさんだけでなくユキさんにまで渋い顔をされた。しょうがないじゃん。硫黄が採れるの、火山の火口なんだから。


「なんか、面倒事起こりそうだなあ」

「リン、それフラグっていうらしいよ?」


 と教えてくれたのはマヤだった。



 馬車に揺られ、やって来た王都アウルミアを素通りし、着いたのはフュンフヴェステン。

 東のアインスタッド、西のフュンフヴェステン、という言葉があるらしく、つまり西で拠点となる大きな街の一つだ。火山はここからさらに西にある。

 すでに辺りも暗くなっていたで、今日はこの街までとして、西の火山には明日向かうことになった。


「よお!」


 宿で記帳していた時に声を掛けてきたのはアキラだ。


「同じ宿だったのか」

「らしいな」


 アキラはさりげなく手を腰に当てていて、ドヤッているように見えた。ハイハイ、自慢したいのね。


「聞いたよ。ドラゴン倒したんだって?」

「そうなんだよ! グラキエースではあまり役に立てなかったけど、こっちでは大活躍さ! もう、グラディオフランマでザクザク斬れてさあ! 快感だったね!」


 ほう、こっちのドラゴンはアキラの剣でも斬れるのか。となるとマーチの小太刀も効きそうだ。チラリとマーチを見ると、キランと目が光っている。


「それで、リンたちもドラゴン退治にとうとう西に来た訳か」

「いや、オレたちは材料集めだ」


 あれ? 違うの? と首を傾げられても違うものは違う。


「何の材料?」

「言える訳ないだろ」

「待て! クソガキ!」


 オレたちが会話していると、いきなり野蛮な言葉が飛び込んで来た。

 何事か? と宿の外に出て見ると、子供がおっさんに追い掛けられている。


「おいおい、ずいぶん物騒なことが起きてるな」

「あの子供、肌が褐色だろ? サブルムの子だよ。最近よく見かけるって燎さんが言ってた」


 どうやら子供が物取りして店主に追い掛けられているようだが、アキラは見るに徹している。多分クラン内でそうしろとお達しが出ているのだろう。だが、


「ちょっと! やめなさいよ!」


 うちのパーティーメンバーってこういうの見過ごせないんだよなあ。



「で、どうすんのさ、これ」


 助けたのは一人だったはずなのだが、この人なら助けてくれると心の内を読まれたのだろう。子供はあれよあれよと膨れ上がり、今、宿の前に20人ほどの子供がおり、皆助けて欲しいと子犬か子猫のような瞳でこちらを見詰めていた。


「リンどうしよう?」


 知らんがな!

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