第98話 水銀
「これで食料の調達をお願いします」
翌日、オレたちが来たのはオペラ商会フュンフヴェステン支部である。
子供たちをロビーに待たせ、応接室に通されたオレたちは、オペラ商会支部長を前に、テーブルにドサッと金袋を置く。
「一億ビットあります。これで西の火山でキャンプ生活をしている難民たちに、食料を調達してください」
オレたちの圧に気圧された支部長は、「わ、分かりました」と応えるのがやっとだった。
「ふう。これで沢山の人たちが助かるわね」
何が面白くてゲームの中でリアルマネー使って慈善活動してんだろう? いや、こういうのは考えすぎたら負けだ。良いことをしたんだオレたちは。でもなあ。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん、ありがとう」
オペラ商会を出たところで、一人の少女がそう言ってくれた。それに続くように子供たちがありがとう、ありがとうと感謝を述べてくれる。ああ、これが一億の価値か。
などと慈愛と哲学が入り交じった感情で子供らを見送ろうとしたら、オレにありがとうと言ってくれた少女が、足を引き摺っているのに気付いた。
「ちょっと待った」
振り返る子供たちの中には、手や足が震えている子が何人もいる。これって…………。
「その症状は火山に引っ越してきてからなったのか?」
嫌な予感で背中を冷たい汗が流れる。
「症状って?」
「手や足が震えてるだろ?」
「ああ、うん。こっちに来てからだよ」
「大人も子供も」
「立てなくなった人もいる」
ゾッとする。
「リン……?」
子供たちの異様さに、マヤやマーチ、ブルースも心配そうだ。
「もしかしたら、水銀中毒かも知れない」
「水銀中毒?」
マヤに頷くオレ。
「多分、川の水に土中の水銀が溶けて、それを常飲してたから、中毒を起こしたんだ」
「川の水が毒ってこと?」
マーチの問いにオレは頷きで答える。
「そんな、そんなのどうしようもないじゃない」
辛そうな顔でマヤが子供たちを見ても、子供たちは意味が分からずキョトンとしている。
「どうにかならないの?」
「そこら辺の毒なら、店で売ってる毒消し薬でどうにかなるだろうが、水銀中毒の薬なんて…………! エリクサー!」
「それだわ!」
「ブルース!」
「すぐにパスを繋ぐ」
さすができる男ブルース。オレ、魔女のへリングのコードなんて知らないよ。
「フゥーーーー」
パスでへリングと話し終わったブルースは、長いため息を吐いた。
「なんだって?」
居ても立ってもいられず、マヤが尋ねる。
「10億ビット」
は?
「10億ビット払えば、分けてやるそうだ」
「なんじゃそりゃあ!?」
横で怒髪天を衝く勢いのマヤ。それこそこのまま東の果てまで駆けて行きそうなのを、後ろから羽交い締めにして抑えるが、オレの膂力では御し切れず、ズルズルと引っ張られていく。
「まあ抑えろよ。向こうだって慈善活動してんじゃないんだ。逆に考えろ。金払うだけでエリクサーが手に入るんだぞ!」
オレの言葉が効いたのか、立ち止まって深呼吸するマヤ。
「そうね。10億。今の私たちなら払えるもんね!」
なんとか、機嫌が直って良かった。
その後、子供たちに川の水には自然界の毒が混ざっていることを説明すると、凄いショックを受けていた。ただ良かったのは、彼らに生活魔法の心得があったことだ。
生活魔法とは家事全般に使われる魔法で、風魔法で掃除をしたり、火魔法で料理をしたり、水魔法で洗濯したり、だ。
なので飲み水は水魔法で出した水を飲み、川には近付かないように言い含めた。自分たちの命が懸かっているのだから、子供たちも真剣だ。これなら大人も話を信じてくれるだろう。
「リン、どうせ私たちも西の火山に用があるんだし、子供たちと一緒に行かない?」
「それもそうだな」
こうして子供たちを馬車の荷台に乗せ、ブルースが手綱を引きながら西へ向かうことになった。
ちなみにオレたちは徒歩である。一頭立ての馬車にオレたちまで乗り込んだらさすがに定員オーバーだ。子供20人でも馬がヒーヒー言っている。なんかごめん。
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