第96話 灯台の魔女

「なあ、確定申告どうするか決めてるか?」


 セイゴさんに話を聞いた翌日、フィーアポルトの南の岬にある灯台に、魔女に会うために向かっている途中でマヤに話を振った。

 マヤは難しい顔になるが、マーチやブルースはキョトンとしている。ちなみに灯台に向かっているのはこの四人だけだ。ファラーシャ嬢は執事やメイドからストップが掛かった。

 当然だろう、ほんのちょっと目を離したら遠い異国に行っていたなんて事態、お付きとしては二度とごめんだろう。これで正式にファラーシャ嬢は帰国することとなり、今度お別れパーティーをすることになった。まあ、この依頼が終わってからだ。


「確定申告って、どこからどこまでするの?」


 確かに何も分からないとそこが悩みどころだ。なので、


「こっちの銀行から、あっちリアルの銀行に送金した分から申告が必要らしい」


 と答える。


「へえ。確かいくら以下なら申告しないで大丈夫とかなかった?」

「オレたちは個人事業主になるから、原則確定申告は必要だよ」

「そうなんだ」


 うん、スゲエ面倒臭そうな顔してんな。


「でもオレらの場合は通帳にこっちからいくら入金されたか、だけだから、確定申告それ系のサイトやアプリで一発だってアキラが言ってたよ」

「ホントに?」


 とても明るい笑顔になりました。


「ただ、1000万クラスになると税金の引かれ方に引くとも言ってたな」

「あう!」


 頭抱えとる。


「そんなにリアルに送金してたのか? オレなんて20万くらいだぞ?」

「それ少な過ぎでしょ? 先日のグラキエースだっていくらもらったと思ってるのよ!」


 一人8億だったな。もらい過ぎなぐらいだったが、フレッド陛下曰く、少なくて申し訳ない。と言われてしまった。まあ、グラキエースはこれから国を建て直していかないといけない訳で、オレたちに払える金なんて実際には無いに等しかっただろうに。


「で、1000万以上送金した訳ね」


 コクリと頷くマヤ。


「しょうがないでしょ! 乙女はお金が掛かるものなのよ!」


 乙女にそんなにお金が掛かったら、女の子を持つ親は皆破産である。


「おい、着いたぞ」


 ブルースが話をぶった切る感じて話しかけてきた。

 見ればそこには漆喰で白く塗り固められた灯台がすっくと天に伸びている。崖の上にそびえ、海鳥が周りを飛んでいる風景は、一見すると魔女の匂いをまるで感じさせない。



 コンコンッ。


「お邪魔しまーす」


 キィと入り口の扉を開け、中に足を踏み入れると、まず目に飛び込んでくるのが本だ。壁一面を埋め尽くす本棚は、階段まで侵食していて、おそらく何千何万という本が上階、灯台から光を放つあの場所まで並べられている。


「ああ、来たかい」


 本を何冊か小脇に抱えて階段を降りてきたのは、紫色の髪をした老婆だ。


「どうも、お久しぶりです」

「もう、そんなになるかい?」


 老婆、魔女へリングはテーブルに本を置きながら椅子に座る。

 前に来たときは、確かハイポーションをもらいに来たのだった。だがハイポーションの材料が足りず、色々探し回った記憶がある。


「今日お前たちに来てもらったのは、採ってきて欲しい材料があるからだ」


 まあ、そうでしょうね、と頷く。


「今私はエリクサーを作っていてね」

「「エリクサー!?」」


 マーチとブルースがかなり驚いている。


「そんなにスゴいの?」


 と一人話についていけてマヤがオレに聞いてくる。


「伝説級の霊薬。どんな病や傷も治す万能薬とか、不老不死の薬だとか、そんな感じのものだよ」

「なるほど。また不死身ですか」

「また、とはどういうことだい?」


 マヤの言葉に引っ掛かりを感じたへリングに説明する。


「なるほど。ドラゴンねえ。まあ安心しな。ドラゴンの血を持ってこいとは言わないから」


 明らかにホッとするマーチとブルース。


「ただしエリクサーを作るには賢者の石が必要でね」

「賢者の石は知ってるわ。なんかスゴい石でしょ!」


 マヤはドヤ顔だが、他は白い目である。


「私の手持ちの賢者の石じゃ、エリクサーを作るには量が足りなくてね。お前たちにはこの賢者の石を採ってきてもらいたいのさ」


 なるほど。


「賢者の石って産出するものなんですか?」


 オレの問いにへリングは首を横に振る。


「いいや、水銀と硫黄と塩から作る。塩はあるから、お前たちには水銀と硫黄を持ってきてもらいたい」

「うわあ~、どっちも危険なやつや~」


 オレが明らかに拒否反応を示したのを、ニヤリと笑うへリング。


「大丈夫さ。それ用の道具も用意してある」


 そう言ってへリングがマジックボックスから出したのは、人数分の黒いグローブと黒いマスクだった。


「これをつければ大丈夫だ」


 そう言われてもなあ。オレは一応グローブとマスクを自分のマジックボックスに仕舞った。


「こんな材料で作ったものが、薬になるんですか?」


「ただ混ぜただけじゃ、そりゃ毒さ。でもそれを薬に変えるのが錬金術ってやつでね」


 へリングはそう言いながら地図を出す。


「この地図の✕印のところに水銀と硫黄がある。それじゃ頼んだよ」


 今回も、中々ヘビーになりそうだ。

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