第67話 イベントが渋滞してる
海賊━━。
山賊の海版であり、船を使い商船や沿岸集落を襲い、金品を強奪するなどの略奪行為を行う集団である。けっして格好いいモノではない。
何故オレがそんなことにを言っているのかと言うと、今まさにオレの目の前で海賊行為が行われているからだ。
フィーアポルトの港に寄港しようという商船に、小型船を横付け、縄梯子を引っ掻けて商船へと登って行っている。
で、その縄梯子を礫弾でぶった切るオレ。
「何者だぁ!?」
海賊の小型船からそんな声が上がる。正義の味方とでも言って欲しいのだろうか? ああ、何度目だコレ?
オレはこの一週間、毎日一度は海賊の相手をしていた。
と言うのも、人工宝石の手掛かりが海賊にある。訳ではなく、単純な人手不足だ。
覚えているだろうか? オレがアインスタッドのギルドマスターの紹介でフィーアポルトのギルドマスター、セイゴさんに会えると知って冒険者ギルドにいたプレイヤーが全員出ていったのを。そうです。一週間経った今も、彼らは帰ってこないのです。
お陰でフィーアポルトの冒険者ギルドの掲示板には、クエストやらイベントやらミッションやらが溜まり放題であり、それらをこなしておかないと、冒険者ギルドの存続自体問題視されると言った危機的状況だった。
だが今の冒険者ギルドにいる冒険者はオレらパーティー四人と、ギルドに残ったNPCの冒険者数名だけなのだ。
十名にも満たない人数で、山のように届けられる依頼を、片っ端からこなして一週間。
「げ、限界だ…………」
ギルドのロビーでテーブルに突っ伏したオレから出たのは、魂の叫びだった。
海賊退治に始まり、商会の坊っちゃんが下女と駆け落ちしたから引き戻して欲しいだの、うちの猫が迷子になったから探してくれだの、アウルムにしかないものを外国で売りたいからダンジョンに潜ってくれだの、近くの島に住み着いたセイレーンを退治してくれだの、国外の貴族と決闘することになったから代わりに出ろだの、ツケを払わない商会の会頭を捕まえてくれだの、岬の灯台の魔女から薬をもらってきてくれだの、うちの猫が迷子になったから探してくれだの、だの、だの、だの、…………さすが冒険者の最前線、やることが多い! 多過ぎる!!
イベントが渋滞してるよう。アキラ早く戻って来てくれい!
「ゴホゴホ。すまないね、無理をさせてしまって」
車椅子に乗ったセイゴさんが、日々の激務に追われて死屍累々のロビーにやって来た。
「大丈夫なんですか?」
疲れているのは確かだが、死にかけの人に心配される程ではない。
「ああ、リンタロウくんに言われた通り、柑橘ジュースを飲むようになったら、魔法の効きも良くなってね」
う〜む。適当なこと言ったから、快方に向かうとは思わなかった。壊血病にビタミンCは有効だが、魔法の力も凄いな。
「今日はどうかしたんですか?」
何もないのに病人が病室から出てくるとは思えない。
「ああ、よく分からないが、
オレにもよく分からないが、そうらしいですね。オレは首を縦に振る。
「だから、これからは1日一組限定だけど、冒険者と面会し、彼らに合った仕事を私の方から斡旋してみるよ」
そうなれば、今冒険者ギルドにいない冒険者たちもすぐに帰ってくるって寸法ですね。
「大丈夫なんですか?」
あまり無理をさせてオレたちみたいになられても困る。がセイゴさんはゆっくりだが力強く頷いてくれた。
「じゃあ、オレからアキラ、知り合いにパス送っておきます」
オレがそう言うと、フィーアポルト帰属のNPC冒険者たちもパスで他の
人間とはかくも現金なモノなのか、皆当日中にこのギルドに帰ってきやがった。
セイゴさんに会えること、順番はどうするか? など、あんなに広かったロビーから溢れる程の人々が、一様にやいのやいの言っている。
「疲れたし、帰ろうぜ」
その日オレたちは、何だかんだで結束が高まったNPC冒険者たちと一緒になって打ち上げをした。何の打ち上げなのかなんてどうでもいい! あの激務から解放された喜びで、超盛り上がった。
打ち上げの帰り道のことだった。
「お兄さんたち、冒険者? 良い土産物があるんだけど、買ってかない?」
宿への近道だからと薄暗い路地を通ると、小学生ぐらいの少年に声を掛けられた。手に麻の小袋を持っている。ハッキリ言って怪しさ100%だ。
「土産物って?」
オレが尋ねると、少年は近くに寄ってきて、周りからは見えないように、オレたちにだけ、そのブツが入った袋の中身を見せてくれた。中身は宝石だった。
皆で目配せし、少年にどこで手に入れたのか問いかけようとした時だった。
「そこまでよ!」
声の方を見遣れば、そこにはピンクの髪をドリルのようにカールさせた、仮面の少女が立っていた。
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