第68話 火の玉娘
「悪党ども、覚悟しなさい!」
と仮面の少女は両手をオレたちに突き出す。
オレたちと少女では10メートルは離れてる。何かしらの遠距離魔法か。とか思っていると、少女の両手の前に大きな火の玉が出現する。
「ファイアボール!?」
「あの大きさ、ゴブリンリーダー並よ!?」
危険を察知したマヤが直ぐ様オレたちと少女の間に割って入り、鬼面の大盾を構える。その陰に、少年の手を引きオレたちも隠れる。
ドオオオオンッ!!
建物が軽く振動するほどの轟音と焦げ臭い熱風が、大盾の端から通り抜けて行く。
「大丈夫か? マヤ」
「全然へーきよ」
どうやらマヤはゴブリン退治をした頃より、数段逞しくなっていたようだ。
「くっ、私の必殺のファイアボールを防ぐなんて、やるわね。でも、一度で諦める私じゃない! 一度でダメなら二度三度よ!」
と今度は左右の手に一つずつファイアボールを作り出す少女。
マジか!? と一瞬焦ったが、少女の次弾次々弾は不発に終わった。何故なら、
「うぐっ!?」
少女がファイアボールを放つより早く、マーチが少女の腹に一撃食らわせたからだ。
「殺してないよな?」
オレは盾から顔を出しながら尋ねる。
「殺してない。当て身を食らわせただけ」
器用だな。当て身が気絶させる技なのは知っているが、どういう技なのかは分からない。
とオレは腕の中で少年が震えていることに気付いた。
「大丈夫か? 怪我はないか?」
呼び掛けても少年は返事をしてくれない。
仕方なくオレはポーチから大金貨二枚を出し、少年に見せる。
「これをやるから、その宝石全部くれ」
「ホントですか!?」
ああ、元気になったな。いや、現金になったというべきか?
まぁ、元気になったみたいなので金貨と宝石を交換し、オレたちは少年と別れた。立ち去りながらも元気に手を振っている様子は、オレには普通の少年のように映った。
「さて、こいつどうするの?」
残されたのはオレらパーティー四人と、仮面の少女だ。
年の頃なら中一ぐらいだろうか? 服装は生地も仕立ても良い上流階級のお嬢様って感じだ。目元を隠す仮面が蝶の形をしており、白目剥いて気絶してるせいか、体全体から残念臭が漂っているが。
「このままここに置いておく訳にもいかないでしょ?」
マヤさんはお優しいですねえ。こっちは殺されかけたっていうのに。
「じゃあさっさと運ぼうぜ。いくら人気がなくても、さっきの騒ぎじゃ誰か来てもおかしくない」
オレの意見に三人は頷き、一旦少女を海王の真珠亭に連れていくことになった。
「ファラーシャ様あああ!」
宿に着いた瞬間、執事服のおじいさんが凄い勢いでオレたちに、いや、少女に近付いてきた。
「よくぞご無事でお戻りになられました!」
この状態でご無事って、いつもどんな状態で戻ってくる訳? などと不粋な突っ込みはしない。
「ああ、ファラーシャ様をお連れいただき、誠にありがとうございます」
深々と礼をされるが、経緯を聞かないでよいのだろうか? まあ、聞かれても困るけど。
「とりあえずこの子をよろしくお願いできますか?」
オレは背負ってきた少女を、遅れて駆け込んできたメイドさん二人に引き渡す。
「それと、オレたち庭にいますんで、起きたら教えてください。聞きたいことがあるので」
「分かりました。そのようにお伝えします」
そこでオレたちと少女一行は別れた。
海王の真珠亭はその建物を広い庭に囲まれており、そこには散歩コースを始め、プールや休憩用の
「う〜ん……」
「どう?」
その東屋の一つで、オレは今回買った宝石の鑑定をしていた。マヤがウズウズしながら訊いてくる。
「見た感じ、不純物がまるで入ってない。これは人工宝石だと思う」
「やっぱりそうなのね!」
バフで視力を強化して宝石の中を覗いて見たが、見事というほど不純物(内包物)がなかった。しかも買った宝石、ルビーにサファイア、ダイヤモンド全てだ。天然物でそんなことはあり得ないだろう。
「じゃあ、あの子供が人工宝石製造の犯人に繋がってるのね?」
「どうかな?」
「違うの?」
首を傾げるオレに、マヤも首を傾げる。
「商業ギルドで住所調べた時もデコイを掴まされただろ? そう簡単に行くとは思えないんだよなぁ」
「確かに、そうね」
四人神妙な顔でテーブルの人工宝石を見つめていると、誰かが近付く気配を察知し振り返る。
そこにいたのは、あどけなさの残る少女だった。蝶の仮面こそ付けていないが、ピンクのドリル頭からして、あの少女だと分かる。
少女は、こちらが少女の存在に気付いたと分かると、カーテシーと呼ばれるスカートの端を摘まんで礼をしてくれた。
「私はファラーシャと申します。まずはお詫びをさせてください。どうやらとんだ勘違いで皆様にはずいぶんと危険な思いをさせてしまったようで、申し訳ありませんでした」
う〜む。路地で見た溌剌玲瓏な感じとはまるで別人だなぁ。あ、後ろでおじいさんが厳しい顔で控えてるからかな?
「それはもう過去のことですし、こうして詫びもしてもらったので構いません」
オレの言葉に、ファラーシャ嬢は心底ホッとしているように見えた。
「それで、お嬢さんは何であんなところであんなことしてたの?」
とりあえず気になるので教えて下さい。
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