第66話 聞き込み

「鋼玉の個人輸入? 知らねえなあ」


 昼間から酒場で酒盛りしている船員たちに訊いて回ったが、そんな輩はいなかった。そもそも船での交易は国や商業ギルド、商会レベルでなされるもので、個人では受け付けていないのだという。


「これで終わりですか?」


 とオレたちの案内をしてくれていたラピスさんが尋ねてくる。


「いや、後二ヶ所お願いします」



 次にきたのは武具屋だ。


「ルベウス産の武具? そんなのみんな買ってくよ。誰かどれを買っていったかなんて覚えちゃいないねぇ」


 武具屋の親父には、冷やかしなら帰れ、と目で訴えられるが、もう一つ訊いておきたい。


「その中に子供はいますか?」

「子供……いるな」


 やはりか。


「みすぼらしいって程じゃないが、あんまり金持ってないようなガキが、たまに立派な剣や斧を買っていくよ。どっから金調達してきてんだか」



「怪しいわね」


 フィーアポルトの海が見える飯屋で一息吐いている時のことだった。

 さすがにマヤや他の皆も子供の行動を怪しみ出した。


「子供が武器を持たなきゃならない程、この街は治安が悪いのかしら?」


 うん、そうじゃない。


「いえ、当冒険者ギルドにはレベルの高い冒険者が集っていますから、治安は他の街と比べても良い方だと思いますよ」


 ラピスさんも何真面目に返してるんだよ。


「裏で大人が糸引いてるんだろ」


 オレがそう話すと、


「子供に戦わせようっていうの?」

「許せませんね!」


 違うし! ブルースやマーチまで同意するな。


「人工宝石に何が使われてるか覚えてるか?」

「クロム……だっけ?」

「じゃあルベウス産の鉄武器が錆びずに頑丈なのは何で?」

「クロムね。…………! クロム! クロムが共通してるわ! …………してるとどうなるの?」


 ああ、もう! ハァーーーーー。


「多分、犯人は宝石商で鋼玉を、武具屋で鉄武器を子供に買ってこさせ、この街で人工宝石を作っているんだ」

「何だってええ!?」


 驚き方がスゴいな。全員立ち上がったよ。

 オレはとりあえず周りのお客さんの迷惑になるので、皆に座るように指示する。


「でも何で子供使ってるの? 自分で買った方が早くない?」

「アホウ、自分で買ってたら簡単に身元がバレるだろ」


 オレが嘆息していると、


「ぬー、許せん! 私利私欲のために子供を使うなんて!」


 皆おかんむりだなぁ。怒髪天に昇る勢いだ。


「まあ、冷静になれよ。まだ相手の居所も掴めてないんだぜ?」


 このオレの発言に全員が我を取り戻したようだ。


「で、当然手掛かりくらいは掴んでるんでしょうね?」


 マヤが顔を近付け訊いてくる。次の場所に手掛かりがあれば良いんだけど。



「スミマセン、捜査にご協力ください」


 商業ギルドの受付で、ラピスさんが赤札を出すと、受付のお姉さんが慌ててギルドマスターを呼びに行った。

 この赤札は冒険者ギルドでも一部の限られた者しか持っていない、言わば警察手帳のようなもので、その土地の領主から、捜査権限を委託されている証明書だ。コレのお陰でオレたちは今回スムーズな聞き込みができたのである。


「お待たせしました。こちらへどうぞ」


 ギルドマスターを呼びに行った受付のお姉さんが、オレたちを奥へと連れて行ってくれた。



「最近になって、鋼玉を取り扱いたい。と申告してきた人間ですか?」


 オレは問い返す禿頭のギルドマスターに頷きで返す。


「少々お待ちください」


 と言ってギルドマスターは書棚から資料を取り出し、ペラペラと捲り始めた。


「多分、冒険者だと思うんですけど」

「冒険者ですと、…………三名程いらっしゃいますね」


 三人か…………。


「その資料見せてもらってもいいですか?」

「ええ、どうぞ」


 緊張した面持ちのギルドマスターから資料を借りて目を通す。資料が日本語なのは仕様だろう。しゃべってる言葉も日本語だし。


「…………こいつだな」

「見つかったの!?」


 オレが資料を指差す。すると皆が一斉にそこに顔を寄せた。


「ウェイザー・メイザー? こいつが犯人か!」

「なぜ三人の中から彼が犯人だと? 他の二人も共犯の可能性があるのでは?」


 怒りを燃やすうちのパーティー三人と対照的に、ラピスさんは冷静に根拠を質問してくる。


「共犯は分からないけど、今のところは低いかな。この二人は鋼玉だけでなく、様々な宝石を輸入しようとしてる。多分本当に宝石関係で仕事がしたい人なんだと思う。対してこのウェイザーって男、輸入しようとしてるのは鋼玉だけだ」

「それは怪しいですね」

「さらに国内で大量に炭を購入した形跡がある」

「炭、ですか?」


 首を傾げるラピスさん。


「はい! 私知ってる! 炭とダイヤって同じモノなんだよね?」


 マヤ正解。炭もダイヤも同じ炭素だ。ただ分子配列が違うだけ。でもラピスさんだけでなく商業ギルドのギルドマスターも驚いているところを見ると、こっちでは当たり前の知識ではないようだ。


「で、これからどうするの?」


 マヤが目をギラリと輝かせている。やる気の目だ。


「知ってるか? 商売するには商業ギルドに所属しなければならない。そして商業ギルドに所属するには、住所がないといけないんだ」


 つまり、ここには住所も記載されてるって訳さ。



 五人で速攻でその記載されている住所に強襲をかけた。

 よくある安アパートの一室で、入口のドアを蹴破り中に入ると、…………誰もいなかった。

 いないと言うより、使われた形跡がない。ギルドの資料に記載されていた住所は、偽造されたものだった。

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