第65話 航海病
「すまない、ね。ゴホゴホ」
寝室と言うよりは病室と言った雰囲気の部屋で、フィーアポルトの冒険者ギルドのギルドマスターであるセイゴさんは、身体中に包帯を巻き、ベッドに横になっていた。
やつれていて腕なんて枯れ木のように細い。コレでは冒険なんてできないし、「冒険者ギルドのマスターだ」とは胸を張って言えまい。
「君たちは、リンタロウくん、マヤさん、ブルースくんにマーチさんで良いのかな?」
とセイゴさんに尋ねられる。何というか、元気に返事をする雰囲気じゃないなぁ、全員頷きで返す。
「君らのことは各ギルドマスターから、何かあったら手助けをしてやって欲しいと通達が来ているよ」
へえ、そんなことになってたのか。
「それで、今日はどんな用件なんだい?」
セイゴさんに尋ねられ、横に控えるメイドさんの方を向くと、分かっています、とメイドさんは一つ頷き、オレらが持ってきた手紙をセイゴさんに渡す。
「ふむ。人工宝石の案件か」
セイゴさんは手紙をメイドさんに返すと、こちらへ向き直る。
「人工宝石に関しては、こちらもその足取りを追っているが、中々足が掴めなくて苦戦してたんだ。協力してくれると助かるし、こちらも助力は惜しまない。何か、して欲しいことはあるかい?」
「そうですね。宝石商とルベウスの船員に話を訊きたいですね」
「なるほど。ラピス、彼らをゴドワルト商会に連れて行ってやってくれ」
「畏まりました」
セイゴさんの命に一礼して応えるラピスさん。
ラピスさんに促されるようにしてオレたちは部屋を出たが、扉が閉められた瞬間、部屋の中からゴホゴホと咳き込む声が聞こえてくる。
「どういう病気なんですか?」
マヤが無神経にラピスさんに尋ねる。スゲエな。オレこの状況で病気のこと訊けないよ。
「航海病です」
「航海病?」
「セイゴ様はご自身も優秀な船乗りだったのですが、ある航海で船が難破し、数ヵ月後に見つかった時には、あのようなお身体となっていました」
う〜ん、何とも辛い話をだねえ。
「リン、どう思う?」
なぜオレに振る?
「普通に考えたら壊血病だけど、こっちの世界にあるのか分からないし」
「壊血病、ですか?」
壊血病を知らないってことは、この世界には無いのか?
「医者には見せたんですよね?」
「ですが手遅れだと。魔法で治療を施しても、身体中から噴き出す血が中々止まらないのです」
うわー。想像したくないな。手遅れっぽいし。でもラピスさんが藁にでもすがるような目でオレを見ているのだが。
「壊血病はビタミンC不足で起こるらしいです」
「ビタミンC、ですか?」
う〜ん、その概念は無さそうだなあ。
「柑橘類は分かりますよね?」
ラピスさんはコクリと頷く。
「あれをジュースにして飲ませると良いらしいです。生のジュースにしてください。ビタミンCは熱に弱いので」
「分かりました。少々ロビーでお待ちいただけるでしょうか?」
などと言ってラピスさんはどこかへ行ってしまった。
「治ると思う?」
マヤが訊いてくる。
「医者が手遅れって言ってたくらいだからなあ。壊血病じゃないのかも知れないし、何ともなあ。まあ、すぐに結果はでないよ」
オレたちがロビーで、それこそ柑橘ジュースを飲んでいると、ラピスさんが奥から小走りでやってくる。
「申し訳ありません。お待たせしました」
ちょっと表情明るくなってるかも。セイゴさんがジュース飲んでくれたのかもな。
「あんまり与えすぎるのもアレなんで、柑橘ジュースは1日二回にしといてください」
生兵法は大怪我の元、過ぎたるは尚及ばざるが如しっていうからな。オレの知識を過信されても困る。
「分かりました」
と頷くラピスさんの後に続いて、オレたちはゴドワルト商会に向かった。
「こちらも困っておるのです。あのような
四方に、宝石をあしらったアクセサリーが飾られた、とてもきらびやか、でも悪趣味じゃない応接室で、ゴドワルト氏は困惑の表情を浮かべている。
これがうちで扱っている宝石です。と目の前に出されたルビーとサファイアを見せてもらった時に、バフで視力を強化して見たが、普通は気付かない程度に内包物も含まれる本物っぽい宝石だった。
(どう思う?)
マヤが耳打ちしてくる。
(クロムの鉱脈があるのだとしたら、天然のルビーやサファイアがあっても何ら不思議はないよ)
オレの言にマヤの顔が難しものになった。
「本当に困っているのですよ。最近はダイヤモンドまで出回るようになって」
「え? ダイヤモンドまで採れる国なんですか?」
オレは驚いて思わず聞き返していた。
「いいえ、ルベウスで採れるとは聞いた事がありません。ダイヤが採れるのはアダマス王国ですから」
う〜ん、一か国でなく二か国に渡る人工宝石が、このアウルム王国で出回り始めているのか。
「あ、最後に、鋼玉って扱ってます?」
「ええ、安いですが磨けば綺麗になりますからね。でもやはりルビーやサファイアの方が人気ですね。あ、でも定期的に良く買いにこられるお客様がおられます」
「もしかして
「いえ、子供のお使いですよ」
子供のお使い? 安いとはいえ宝石商だぞ?
「ここではそういうの普通なんですか?」
「まさか。冒険者がこの街をうろつくようになってからですかねえ。何人かの子供がチラホラ買いに来るようになったのは」
怪しすぎる。
オレたちはゴドワルト氏に礼を述べて商会を後にし、沢山の帆船が停泊する港へと向かった。
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