第64話 フィーアポルト
「リン、リ〜ン。いつまでふて寝してるの? フィーアポルトに着くわよ?」
ふて寝だってしたくなる。オレの力の及ばないところで、どんどんと剣呑な状況に放り込まれている気分なのだ。
マヤに揺すられ、幌馬車の荷台から上体を起こし外を見ると、目に鮮やかな海の青と帆船の帆の白が飛び込んできた。
「おお〜」
ちょっとテンション上がった。我ながら単純である。
「どうする? このまま冒険者ギルドに行くか?」
馭者台から馬を操りながらブルースが訊いてくる。マーチはその隣だ。
「いや、先に宿を決めよう。馬車が泊められる宿じゃないと困るからな」
「分かった」
オレたちはフィーアポルトに入り、まず宿探しから始めた。
「ここ、か?」
普段何事にも動じないブルースも、宿を見上げて少し引いている。
アキラに馬車が泊められる宿をいくつか事前に教えてもらっていたのだが、そのどれも満室で、最後にたどり着いたのが眼前の宿なのだが……宿なのか?
「宮殿……かな?」
「だよな?」
一応、ダメ元で、何か門の前にいる槍持って立ってる厳ついお兄さん二人に話を訊いてみよう。
「あの、スミマセン、ここは「海王の真珠亭」であっているでしょうか?」
「…………」
「…………」
無視された。と思っていたら中から人が出てきた。あ、無視したお兄さん二人が驚いてる。
「申し訳ありません! 門衛に通達がされていませんでした!」
何かカチッとした服装のオジサマが、必死にこっちに頭下げてくるんですけど?
「あの、誰かと勘違いしてません?」
「いえ、リンタロウ様御一行でございますよね? オペラ様よりこちらに話は通っております! どうぞ、この宿を我が家と思いお使い下さい!」
オペラさんグッジョブ! と言うかこんな高い宿に顔が聞くとかスゴいな。そして先程から必死に頭を下げているオジサマは、なんとこの宿の支配人だそうだ。
「そんなに頭下げなくて大丈夫ですよ?」
「いえ、この商売、信用が第一ですから! 噂千里を走ると言います。このような不手際本来あってはならないのです!」
スゲエプロ意識高い人なんだ。
「リンタロウ様御一行には、こちらの不手際のお詫びとして、このフィーアポルトにいる間、ただでこの宿をお使いくださって結構ですので、何卒、このことは……」
ハァーーーーー。
「支配人さん」
「はい、何でしょうか?」
「プロ意識が高いのは分かったけど、自分を安売りするのはどうかと思うよ。宿代はきっちり払います」
支配人はまだ何か言いたそうではあったが、こちらの尊厳にも関わることだ。支配人は折れて、オレたちを部屋に案内してくれた。
「うおっ! オーシャンビューかよ、スゲエな」
部屋はスイートルームが二部屋。どちらもオーシャンビューの豪華なものだった。というかこの宿スイートルームしかないそうだ。
部屋割りはオレとブルースの男子組と、マヤ、マーチの女子組だ。
「何かご用の際には、こちらの鈴をお鳴らし下さい。すぐに使用人が参ります」
「はい、分かりました。ありがとうございます」
オレが返事を返すと、支配人はそそくさと部屋を後にした。
「大丈夫なのか?」
とブルースが不安げに尋ねてくる。
「何が?」
「部屋代だよ」
「…………正直、ビミョー」
神妙な顔で応えるオレ。
「だよな?」
「これは別の意味で人工宝石の出所探し頑張らないと、オレら、破産するぞ」
「…………マジかー」
沈痛な面持ちのまま二人で一階ロビーに行くと、女子二人がソファーで呑気にドリンクを飲んでいた。ちょっとだけ殺意が沸いた。ちょっとだけだよ。
やって来ました、フィーアポルトの冒険者ギルド。
馬車を宿に預けて、オレたちは徒歩で冒険者ギルドにやって来た。
扉を開けてまず目に飛び込んできたのは、アキラだった。
「オッスー」
「オッスー」
何となく二人して拳と拳を合わせてあいさつする。
「来たなフィーアポルト」
「来ちゃったよフィーアポルト」
「初フィーアポルトの感想をどうぞ」
「物価が高い」
拳をマイク代わりにするアキラにそう応える。
この冒険者ギルドに来る途中、市場を通ってきたのだが、さすが他国との玄関口、良い品が揃っているのだが、どれもこれも高かった。ミカンなんてトレシーの二倍の値段だった。
「あっはっは、ここは最前線って感じの場所だからな。値段も相応だよ」
何で最前線だと値段が高いのか分からないが、アキラはそういうモノだと割り切っているようだ。
「それでどんな依頼をご所望なんだい?」
アキラは先輩風を吹かせたいらしく、掲示板にオレを連れ立て、あれやこれや説明してくれるのだが、
「悪いなアキラ。オレらすでに依頼受けてんだよ」
「マジかよ? もしかして隠れクエスト?」
なんだそりゃ? オレが首を傾げているとアキラが説明してくれた。
「NPCから個人的に依頼を受けたんだろ? こういう掲示板に載らない、NPCと仲良くなって受けられるクエストを隠れクエストっていうんだよ。いいなあ。オレも一枚噛ませろ」
何か今日グイグイくるな。アキラってこんな感じだったっけ?
「その辺にしとけよ。困ってるぞ、お友達」
オレたちに声を掛けてきたのは、真っ赤な全身鎧を身に付けた男だった。誰だ?
「ああ、悪いオレが邪魔しちまったか?」
「いや、そんなことないですけど」
胡散臭そうに見ていたのがバレたらしい。オレはどうにも顔に出やすいな。
「オレは
すたあせいばありょう? 凄い名前だな。自分で付けたんだろうか? 付けたんだろうなぁ。
「燎さんはオレが所属してるクランのリーダーだよ」
と教えてくれるアキラ。へえ、そういやアキラもこっちじゃ変な名前だったな。忘れたけど。
なんと言うか、二言三言交わしただけだか、関わっちゃいけない気がする。オレが振り返りマヤ、マーチ、ブルースを見ると、同時に頷いた。オレと同じ勘が働いたようだ。
「じゃ、オレらここのギルドマスターに用があるから」
「マジか!?」
オレがそう応えると、アキラだけじゃない、燎さん、それにギルドにいた全員がざわめく。
「どうやって!? どうやってマスターとの面会にこぎつけたんだ!?」
アキラに両肩持って揺さぶられるオレ。
「どうも何も、アインスタッドのギルドマスターの紹介だけど?」
次の瞬間だった。ギルドに詰めていた
「な、なんだったんだ?」
残された三人を振り返っても、誰も答えられるはずがなかった。
「スミマセン、紹介状はお持ちでしょうか?」
とそんなオレに話し掛けてきたのは、青い髪のメイドさんだった。
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